2021年8月5日、北アルプス南部にそびえたつ一際険しい百名山「笠ヶ岳」を歩いてきました。
標高2,897mの笠ヶ岳は他の山から見たときに一目でわかる形をしています、なだらかな稜線の奥にポッコリと突き出した突起のような山頂を眺めると……「話には聞く辛い山なんだなぁ」と言葉が漏れ出てしまいます。
笠ヶ岳はその登山ルートが中々に過酷です、最短ルートとされる笠新道は森林限界の杓子平にたどり着くまで急斜度の道を延々と歩くことになります。登りでも下りでもこの笠新道は辛い、僕の周りの経験者も笠新道で膝に不調を訴えた方が数人いるくらいです。
もう一つのクリヤ谷ルートは沢を何度も横切る為、夏場の増水時は危険だし何よりもコースタイムが長い、長すぎる。
最も安心して歩くことができる小池新道から弓折岳を経由する縦走ルートでも一泊二日の工程が必要となります。
どのコースを選んでも体力を求められるのが笠ヶ岳の特徴的ですね。
今回は夏季の北アルプスということでお花畑が全盛の時期を狙って双六小屋からの縦走路を利用、笠新道を下りで使う形で歩くことにしました。笠ヶ岳を歩くには最も楽で安全なコースです。
このコース、弓折岳までの工程が意外に素晴らしく縦走の楽しみが詰まっていることもあり、とても楽しく歩くことができました。
下山時の笠新道は写真を撮る余裕が一切ない過酷なもので本当に驚きましたが、稜線は北アルプスでも特にワクワク出来る美しさを持っています。
小池新道からの笠ヶ岳縦走の概要
車アクセスを利用した新穂高温泉の駐車場争奪戦は夏の風物詩です。極力参加したくないイベントなので、できればバスト電車でアクセスしたいですね。
早朝の畳平から小池新道を歩く
2021年8月5日午前3時10分、諏訪SA。
おはようございます、Redsugarです。
北アルプス南部の玄関口、上高地と新穂高温泉へと東京方面から向かう際の休憩地点といえばぁ~~、諏訪!!!
ということで、高速道路を降りてから始まる長い下道に備えて色々と補給なり準備をしておくタイミングでございます。
ここから先の下道は辛い、準備はここで済ませておけ!
午前5時05分、畳平駐車場より新穂高温泉へと向かう。
Fuck you…(悲しみと憤怒
物騒な写真から始まりましたね、ハイ。
深夜の高速を走って登山口に向かっても、夜明けに合わせた到着では新穂高温泉の駐車場を使うことはできません。
大体前日の21時くらいには満車になることが多いため、早朝合わせで家を出発するような子育て勢は畳平駐車場を使うしかないのです。
というわけで側溝から立ち上がる湯けむりを眺めながら新穂高温泉へ向けて遊歩道を下ります。
午前5時35分、新穂高温泉。
駐車場から片道30分、登山者の方々が淡々と準備を繰り広げる新穂高温泉へ。
見上げれば北アルプスの山々の稜線が太陽で照らされて大変心地よい、本日も良い天気です。
初日は双六山荘へ向かう工程となり、稜線に上がる時間帯にはおそらくガスが登ってきているとは思うのですが……、頑張ろう。
というわけでプレイボール、ゲートをくぐり小池新道を目指して進みましょう。
小池新道は新穂高温泉から鏡平、双六と裏銀座方面へ向かう一般的な登山道。最初はワサビ平まで伸びる林道を延々と歩くことになります。
ワサビ平手前で今回歩く笠ヶ岳へ向かう最短ルート「笠新道」の入り口が現れます。
急斜度の斜面を延々つづら折りで登り続けることから北アルプスの一般登山道でも随一きついと言われる道になります。
今回は下山時に使用しますが、下山で使うとそれはそれで膝への負荷が結構凄い上に道中一切水を補給できない事情からかなりつらかった覚えがあります。
記事後半で降るけど、数時間歩いたのに写真は数枚しか記録されていない。それだけ余裕がなかったようだ。
午前6時55分、ワサビ平小屋。
小池新道の玄関口ともいえるワサビ平に到着したらまず最初にやっておくべきことは新鮮な野菜の補給です。
ここで食べる塩トマト、みそキュウリはシチュエーションも合わさって1年に数回といえるような神がかった味になっています。夏場はここから先嫌というほど汗をかくだろうから、ここでしっかり塩分補給をしたいところ。
お勧めはトマト、キュウリ、バナナの3つ。あとスイカがいつも浮いてるんだけど……あれはキャンパーが食べるのかな??
トマトとバナナを補給、ここで一息入れて本格登山に備えます。
僕が新穂高を歩いているときは毎回この河原に一本立つ枯れ木を見ている……小池新道のシンボルツリー。
ワサビ平小屋周辺はアザミが奇麗に咲いている季節、山の上は高山植物最盛期だといいんですけどね。
林道ある気が終わり、小池新道が始まります。
最初のチェックポイントは秩父沢、冷たい沢水は補給可能になっています。
顔を洗って目を覚まして先へと向かうことに。
秩父沢からはイタドリヶ原を越えてシシウドヶ原へと登っていくんですけど、道中は日当たりが非常に良い……ので暑い。
大体1時間ごとにチェックポイントが出現するような感じになっているので、焦らずに登る。
景色がいいので休みながら登っていかないと熱中症になっちまいそうだ。
シシウドヶ原に到着するとベンチ登場、木々も減ってきて視界も開けているので大分気持ちが良くなります。
標高は2,090mになるので、既に関東のどの山よりも高いところにいる状況。
シシウドヶ原を出発、次のチェックポイントは鏡平。
コースタイムにして1時間ほどで到着するはず。
「あと五分」の岩が見えたらもう少し、5分で着くかは実際は人による。
鏡平からは楽しい稜線歩き
午前10時20分、鏡平到着。
鏡平にたどり着くころには穂高連峰の稜線は雲の中に飲み込まれていました、残念。
この池とキレイに頭を出した穂高連峰の景色って記憶にない。秋口じゃないと厳しいかなと思う。
本日の工程の半分は達成できたということで、あとはゆっくりと双六小屋へ向かいます。
ということでここでかき氷を食べて夏山をエンジョイすることにしました。
荷揚げのヘリを見送ったらかき氷とジュースを注文、夏山っていう感じの甘味を味わっておきました。
鏡平は売店のメニューが豊富で、かき氷は特にボリューム満点だし映える。さらにまだ体力的に余裕もあるはずなのでここではしゃいでおくのがいいぞ!
鏡平周辺はコバイケイソウとかが生えてて、ものによっては花も咲いておりまして。
かき氷で満足した後、ぽわーっとした目でトンボを眺めながら登山を再開するわけです。
エンジョイ勢のRedsugarは満足してしまった。
いや、もう双六岳でいいっすわ
稜線はどこも雲に包まれている。
槍ヶ岳なんて見えやしねぇ。
鏡平からはひたすらの登り、もうとにかく登り。マラソンコースでいうと微妙な角度の登りが長い距離続くタイプのすごく嫌なタイプの登り!が続く。ここでペースを上げると足が削られてしまうので、ゆーっくりと登ることを意識。
上部にはコバイケイソウの花が満開、2021年は当たり年だったんですねぇ。
3年から4年周期で花が咲くということで、24年~25年はまた満開のコバイケイソウが見れるかもしれない。
弓折分岐付近くらいまで登ったタイミングで後ろを振り向いてみると、山の中腹にぽつんと立つ山荘が良く見える。
大自然の山小屋!っていう感じの景色が味わえるポイント。
さて、弓折分岐を双六方面へと向かうわけですが……ここから先はお花畑の稜線歩きとなります。
ここはライチョウさんがたくさんいるスポットでもありますので、ライチョウと出会いたい方は入念に探しながら歩いてみてください。
今回も一応ライチョウ見つけたけど、他の登山客が撮影にいそしんでいたのでスルーしてしまった……。
花見平と呼ばれる一帯はロープで保護されたお花畑が広がってるんですけども、ご覧の通りハクサンイチゲやコバイケイソウが咲き乱れる大変美しい景色が広がっています。
今回の笠ヶ岳登山、初日はここでお花が見れればいいなーと思っていたんだけど、無事に目的を達成することができました。
花の当たり年に歩けて万々歳です。
花見平を越えると細かなアップダウンの先に鷲羽岳と双六小屋が見えるようになります。
景色は良いけどこのアップダウン、足を削ってくれます。
途中ベンチで休憩、白砂の大地に足を投げ出してぼーっとしてみると本当に静かな時間が流れ始める。
鳥の鳴き声くらいしか音がしないんですけど、道中立ち止まってぼーっとするってめちゃくちゃ贅沢だから是非やってみてほしい。
いや、マジで数分で数週間分のストレスが洗われるような感覚になれる。
よっこらしょっと腰を上げて、トトロの道のような登山道を進めば双六小屋はもうすぐ。
鷲羽岳と双六小屋を見下ろすポイントへ到着、あとは降るだけなんだけど結構距離があるなぁ……。
双六岳を見上げたり、鷲羽岳の向こう側は完全にガスってんなとか色々考えながら歩く。
足元は大きな石が積み合わさったような場所もあり、中々速度は上がらないけど気持ちは焦る。
午後12時55分、双六小屋。
到着後即チェックインした双六小屋、コロナ禍以後の快適な山小屋環境のおかげで寝室はご覧のような最高のおもてなし空間となっております。正直高いお金払ってもよいので今後もこのような形態で運営をお願いできないでしょうか……と思ってしまう。隣の人と密着して寝ることもなくて、本当に良く寝れるようになったおかげで翌日すごい元気に歩き回れる。
双六小屋で寝床を整えているうちに外はどんどん雲が上がってきたようで、いつの間にか小雨がぱらつくようになっていたようです。サンダルで外に出てみるも寒いわ雨だわで撤退。
余裕があれば双六岳行ってこようかなーって思ってたけど、やめました。
というわけでストーブが温かい双六小屋の中で美味しい食事を頂き、スーパードライとカルパスで晩酌を楽しんだら就寝です。一人で山に来てビールを飲むこの瞬間、何も考えずに場の雰囲気を味わう感覚が良い……。
双六小屋から始まる極上の稜線歩き
2022年8月6日午前3時35分、双六小屋出発。
双六小屋から笠ヶ岳は遠い、新穂高への下山まで考慮すると1日のコースタイムは約10時間。
嘘だろと思って地図を見直してもやっぱり10時間くらいです、つまり朝の4時くらいに出発すると14時くらいに下山でき……るわけねーわ、16時は固い。(今回実際に駐車場に着いたのは18時)
笠ヶ岳までの道のりが5時間なので、2日目もなかなか重労働といった工程。
2日目も大変だとわかっていたから初日はとっとと寝たんです。
夜明けの槍ヶ岳を見上げると魔王城みてぇだな。
双六小屋からは弓折分岐まで引き返します。この道中がただひたすらに無心で歩く時間でございます。
昨日歩いてきた道を引き返すっていうのは中々悲しいものがあるもんよ。
夜明けの道中、コバイケイソウと槍ヶ岳のツーショットを眺めながら歩きます。
夜明けの道中を歩いて弓折岳までやってきましたが、山頂部は結構開けてて展望台気味になってまして。
ここで朝日を眺める方々もいらっしゃいました、朝焼けに赤く染まる乗鞍岳を眺めながら僕は先に進んでいきますが…。
弓折岳から大ノマ岳の道中にはコバイケイソウが多く、コバイケイソウと山々のツーショットを拝めます。
この笠ヶ岳へ向かうルートって朝方は光が入らないのです、だって東側に穂高連峰があるから。
空は明るいんだけどしばらく暗いという状況が続きます。
振り返ると双六岳は朝を迎えている、いいなぁ。
太陽が昇り双六からの縦走路に日が入ると一気に視界が開けました、最高に気持ちが良くなったぜ!
太陽が差し込む笠ヶ岳登山道は気分が良いです、夏場はいたるところに花も咲いているので飽きない。
南側に焼岳、乗鞍、御嶽と三兄弟みたいに並んでいるのが楽しい。
穏やかな稜線を花を楽しみながらのんびりハイキング。
後ろを振り向くとこんな感じで、緩やかなアップダウンが最初は続きます、最初は。
最初はいいのよ、しばらく歩くと目の前に抜戸岳に向かう大規模アップダウンが姿を現します。
えぇ……目の前のあの山に降ってから登んのぉ?
大ノマ岳を越えて抜戸岳に向かうんだけど……、ハイマツトンネルをくぐっていかなくてはならない。
写真下部の暗くなっているところに穴が開いている。
見上げると30分以上はかかりそうな斜面が……、景色はアルプスな感じがあって滅茶苦茶楽しいんだけど。
足元が中々にガラガラとした道をひたすら上る、太陽を背に歩き続けてるもんだからとにかく暑いのよ。
太陽から逃げようがないコースなので水問題が常に付きまとう、おそるべし笠ヶ岳。
秩父平周辺って景色が良いのです、岩場と草地のコントラストが日常場慣れした極地感があって。
コバイケイソウは相変わらず当たり年故の花盛り、どこを眺めてもコバイケイソウが見れる。
この年に歩いた飯豊山もコバイケイソウが大合唱していて、数年分のコバイケイソウを見れたのです。
地面から突き出した岩場と雪渓の組み合わせが大変美しい、アルペン的風貌。
抜戸岳に向かってひたすら上りぬける、大ノマ岳からのアップダウンの最後にハイマツ帯に入った時に「あ、もうすぐ稜線が始まる」という感覚が湧き上がります。
秩父平から稜線に上がると姿を現す笠ヶ岳。
周囲を見回してみても裏銀座方面の眺めは良く、穂高連峰も良く見えますが……ここから見る笠ヶ岳にはかなわない。
ここから見る笠ヶ岳までの稜線は最高においしそうな魅力にあふれてますよ。
ちなみに遠方に白山、今日も空気が澄んでおりますのでしっかりと山が見えます。
抜戸岳へ向かう稜線から見る北アルプス南部の景色は距離感近くていいなぁ。
美しい稜線を辿り笠ヶ岳へ
抜戸岳へ向かうこの道は緩やかで歩いてて楽しい。
午前7時50分、抜戸岳付近。
笠新道分岐付近に抜戸岳の山頂があったかなーと思うのですが、大体この辺が抜戸岳だろうという感じ。
巻き道じゃなくて尾根沿いの道を歩いてやってきた。
さて、本日のメインディッシュである笠ヶ岳への稜線が姿を現しました。空は素晴らしい晴れ模様、青空の下で山頂を踏むぞ!
抜戸岳から見る笠ヶ岳の威風堂々した姿はヤバいよ
道中は気持ちのいい景色が延々と続くし、アップダウンもゆるくて最高に気持ちよく歩ける。笠ヶ岳は前半は辛いけどこの稜線はめちゃくちゃ甘美、甘い甘い登山道が続く。
素晴らしい、この景色が延々と続くのは本当に楽しい……!
抜戸岩の手前位にちょうどよく笠ヶ岳とツーショットが撮影できるポイントがあります。ここから山頂まではまだまだ上るのですが、ここで撮影しておくのはお勧め。
目の前の抜戸岩を越えて最後の登りへ、抜戸岩付近が2,730m付近で山頂が2,897mなので160mくらい登る。
目で見ると本当に160m程度しかないのか?もっとあるんじゃないか?!と錯覚するわ。
抜戸岩の隙間を通れば最後の登りが姿を現します、ここはちょっと斜度がキツイ。正真正銘の最後の登りだと思うでしょ。
実は笠ヶ岳の小屋から山頂までさらに登りが続くので気を抜いてはいけないのです。
白馬岳もそうだけど山荘から山頂まで地味にちょっと歩かないといけないのは罠だよね。
笠ヶ岳山荘に近づくにつれて岩にはペイントが現れる、ガンバって励ましてくれるけど……これは笠新道を往路に使った猛者は心に響くんじゃないだろうか。僕は双六小屋からエンジョイで歩いてきたからそんなに疲れもなく、感動はやや薄かった。
午前9時20分、笠ヶ岳小屋。
キリンレモン!!!あとトイレ貸してくださいっ!!!
山荘に到着して即ドリンクを購入しトイレを借りました、が……注意点が一つ。
笠ヶ岳山荘は位置の関係で水が非常に貴重な小屋です、というわけでトイレの使用料金とドリンク料金はやや高め。
しっかりと財布にお金を入れておいてね。
山荘でキリンレモンを飲みながら休憩する小屋番のお姉さん方と談笑、今回の登山はAmazonで購入したノードカムのザックだったのですが、まぁ……さすがに怪しいレアなザックということもあり「それ何処のザックですか?」的な話題に事欠かなかった、悪いザックじゃない。
午前9時40分、笠ヶ岳山頂。
山頂はすぐそこですよーということで見上げた山頂は中々……遠かった。
でもようやく笠ヶ岳の山頂到着です、素晴らしい青空の下で山頂を踏めて本当に良かったぜ。
笠ヶ岳は工程が長かったこともあるんだけど、双六小屋からは道が楽しかったこともあり山頂の感動レベルは高かった……!
本当にエンジョイして歩けた山だと思う。
笠ヶ岳山頂から見る北アルプス南部……というか抜戸岳からの稜線と槍ヶ岳。
すっかり日差しも天頂付近に近づいたため穂高連峰の西面もくっきり見えるようになりました、午前10時前後が一番景色を楽しめますね。
歩いてて気持ちがいいのは午前7時~10時くらいかなと思う。
笠ヶ岳山頂に降り立ちこれでようやく北アルプスの百名山は全部登れました……。百名山だけなんで歩けてないところがたくさん、暇をひねり出して行きたいところをどんどん歩きたいよねぇ。
山頂では談笑する方々が、聞けば笠新道を朝一番に登ってきたんだとか。日帰り装備だから全然大丈夫ですよとのことだけど、すごいなぁ……マネできる気がしない。
穏やかな時間が流れていて気持ちが良かった笠ヶ岳、みんな苦労して登ってきたこともあり互いに称賛しあっていた。
名残惜しい稜線、笠新道を降る
さてさて、山頂を楽しんだはよいのですが……残念ながら本日中に下山しなくてはなりません。
出来れば本日もここに居て、翌日のんびりと下山したいものだけど。
午前11時05分、笠ヶ岳下山開始。
小屋に戻りキリンレモンをもう一杯、2リットルの水を背中に積みなおして出発です。
笠ヶ岳山頂を見返すと見事な石積み稜線で改めて驚きました。
風雨に雪に、そうやって岩だけが残されたような山頂だった……
小屋から少し降りたテント場では設営にいそしむ方々の姿、ここ展望良いし小屋近いから最高だろうな。
いいな、いいな、ここでテント泊したいなぁ~と心の底からうらやましく思う。
いーいーないーいーな、テーントっていーいーなー♪
……日本昔ばなしのエンディングなんて今の若い子はわからないのだろうか。
丁寧に別れを告げてくる笠ヶ岳。滞在時間にして1時間半だが濃密な時間を過ごした実からすると涙なしには歩けない場所である。ここにサヨナラと書くことでまるで小屋番が苦労をねぎらってくれるようなほっこりとした気持ちになるので、これを書いた人にはお礼を言いたい。
だが問題はこのサヨナラのあとには笠新道の下りが待っている、感動は数時間もすれば絶望へと塗り替えられるのだ。
絶望しきった顔で下山したときのために、笠新道の入り口にオカエリナサイとか書いておいてくれるととても助かる、イは逆でお願いします。
コバイケイソウがそよそよと揺れる中を意気揚々に下山する。
抜戸岳というか笠新道分岐までは気持ちよく歩けるもんです。時間帯的に槍ヶ岳も穂高もこれでもかというくらい奇麗に見えるんで。
この日は夕刻になっても稜線に雲がかかることがない、真夏の数少ない快晴日でした。
振りむけば笠ヶ岳は雲を背負いなんかかっこよくなっていた。
復路の道中は下りメインになるので笠新道分岐までは大変速い速度でやってくることができる。
抜戸岳への登り返しも写真で見ると中々ヤバそうに見えるけど、笠ヶ岳の登りよりは全然マシ。
この登りを終えるとあとは笠新道に突入、下りのみの世界になる。
午後12時15分、笠新道分岐。
笠新道分岐地点までやってきました、ここを越えるとワサビ平小屋までは降れる。
ハイマツ帯の中を楽しく登って笠新道に突入。
笠新道分岐から稜線に上がり鷲羽岳方面を眺めるとすっきりと抜けた景色を見渡すことができました。双六小屋のあるV字の谷間の奥に鷲羽岳が良く見える。
真正面の槍ヶ岳から南岳、こちらも快晴。
今から標高を下げて眼下の谷底まで下っていきます、本当にこの標高差を一気に降るのかと思うと流石にくらくらする。
チングルマやハクサンイチゲが咲き誇っていた登山道の奥に見える笠ヶ岳、大変いい山でしたありがとう。
次来るときも同じルートで遊びに来るわと言い残して下山です、正直笠新道と双六からのルートを比較すると道中の楽しさは圧倒的に双六です。ピークハントに特化した笠新道ピストンよりは絶対に楽しいので強く双六からの周回をお勧めしたい。
杓子平に向けて下山を開始すると目の前に大キレットと穂高の山々が屏風のように並んだ景色が現れます。
下山時も目を楽しませることを忘れない笠ヶ岳、素敵です。
この景色を眼前に据えながら楽しく下山するためにも笠新道ピストンじゃなくて双六からの周回をなるべくお勧めしたいなーと思います。道中の景色が本当に楽しいのよ。
お花畑が至る所に散らばった杓子平のくぼ地、槍ヶ岳も眺めれるしここは本当にいい場所。
大キレットと穂高がくっきりと見える、この二日間は絶好の縦走日和だったに違いない。
杓子平付近のこの森林限界草原風景は笠新道の唯一の癒しポイントともいえる。ただ登りの場合ここに着く頃には精魂尽き果てているんじゃないかという疑問があるけども。
夏場に急な樹林帯数時間登った後はどんな凄い景色でも感動が薄まるからなぁ……。
午後1時25分、杓子平付近。
抜戸岳を見返すとそそり立つ壁なんじゃないかっていうくらいの斜面が目の前に広がっていました、これは登りで見ると絶望するかもしれない。やっぱり笠新道は下りで使うもんだわ、膝壊れそうで怖いけど。
この時点で出発からは7時間近くが経過しています、笠ヶ岳小屋を出てから水をチューチュー飲み続けてここまで来たけど異変が……。
あれ……、水が……足りないかも??
塩飴の数が足りなかったこともあり身体から水が抜け始めた、水を飲んでも乾きやすい状況になってきているので急いで下山しなくてはと急ぎ笠新道を降ります。笠新道のつづら折りを降り始めますけども、最初は景色も良く……槍ヶ岳だの穂高の小屋が良く見えました。
この景色を最後に一気に樹林帯へ、急な坂道をつづら折りしつづけて延々と降り続ける。
笠新道マジック、歩いても歩いても同じ景色が広がる。お、おれは帰れるのか!?
幻覚見そうなくらい下りの笠新道下部はつまらなかったと言える。中盤位までは爽快に飛ばせたんですけど、さすがに中盤以降は足に蓄積したダメージの影響で小走りに降りるなんて真似は出来なくなりました。
しかも水が無い、水分補給のペースを読み間違えてしまった。
幸いに同じペースで歩いてた方が逆に水を背負いすぎていたということで500mlほど分けていただけたおかげで何とか脱水せずに済みました、夏の笠新道怖い。
午後3時50分、笠新道入り口。
数時間の苦悶の下山を耐えきり笠新道入り口に到着しました、身体はとても元気だったんですけどメンタルが大分やられていた……。入り口の水ですが、これは下山した人間がジャブジャブ飲むために用意されていたんですね、マジで助かった。
午後3時50分、ワサビ平小屋。
今回は自走できているので新穂高温泉のバスのために急ぐ必要はございません、ということで少し登山道をさかのぼりワサビ平小屋までやってきました。もうおなかがすげー空いてて……、ここで食べるトマトは美味いだろうなと思っちゃって。
塩トマトが脳天に響き渡る甘美な味のハーモニーを奏でたのは言うまでもない、このために笠新道を歩いたのだ……。
ワサビ平小屋を出たらあとは新穂高温泉まで元気よく林道ハイキングです。
積み石をよく見たんだが、林道があまりに暇になった人が積んだのかな?
延々続く林道をひたすら、ただひたすら歩く。この新穂高温泉までの林道も長い、長すぎるッ!!!
虚無顔で戻ってきました。
午後5時45分、畳平小屋。
新穂高温泉に到着したのは5時くらいだったかな、一息入れようと思ってトイレとか色々済ませるじゃないですか、でも駐車場まではここからさらに30分歩かなきゃいけないっていうことで涙を流しながら畳平駐車場まで歩きました。
本当にこの最後の徒歩が蛇足なんだよなぁ……。
このエクストラステージはいつも笑いが出ちゃう
午後6時5分、ひがくの湯。
畳平を出発したら即ひがくの湯に入りました、汗もすごいんだけど空腹もすごかったので……。
というわけでひがくの湯の露天風呂で汗を流したらまずは風呂上がりの牛乳(ジョッキ)を味わうことに。
待てよ……、この時間になると松本まで戻る間の道に開いてる店なんてないからな、ここで飯も食ったほうがいいか。
どうせだからいい飯食って帰るか……。
というわけで飛彈牛焼肉定食とノンアルコールビールを注文、ノンアルがどう見ても生ビールにしか見えない……。
自走できている人間としては本当にノンアルって助かるよなぁ……、気持ちだけは乾杯した気になれる。
下山の時間にもよるけど、新穂高周辺は食事が中々難しいのでひがくの湯は本当に助かります。
というわけで飛彈牛を楽しみ白米とそばでお腹も満たし帰路へ。
帰り道は安定の中央道渋滞に巻き込まれました、上野原から小仏トンネルの間マジで何とかして~。
コメント
コメント一覧 (2件)
こんにちは。
前回の槍ヶ岳に続き、笠ヶ岳も素晴らしい展望ですね。
僕は未だに笠ヶ岳は未踏であり、今年こそは登りにいこうと思っていたので、ルート選びの参考にさせていただきます。
最後のジョッキに入っている牛乳&ノンアルビールが面白いです。
ろっぴ様
笠ヶ岳は想像と違って凄い面白い山でした。ルートが良かったのかなと思います。
笠新道を登るのはあんまり楽しくないだろうなぁ、とおもいますが、紅葉時期なら楽しいのかも??
ノンアルコールがどう見てもアルコールに見えますよね。
牛乳がジョッキで出てきたときはどうしようか本当に困りました。