2019年5月25日、栃木県日光市は足尾町にある中倉山を歩いてきました、標高は1,530mの山で庚申山から皇海山へと続く稜線の東端に位置しています。
この山の特徴は何といっても開放的な稜線、中倉山から沢入山まで開放的な稜線が続きます。
途中には『孤高のブナ』と呼ばれるフォトスポットがあったり、新緑の時期はアカヤシオが稜線を踊ります。
日光市足尾町の山ということで、この山がなぜこのような稜線になったのかは歴史的な経緯があるのですが、今我々の目の前に残るのはこの開けた稜線のみ。
足尾銅山の残した景観の一つですが、人の営みが自然にどれ程の影響を与えるのかということを考えさせられる場所でもあります。
ですが、新緑の季節に歩いてみれば気持ちの良い稜線が皇海山へと向かって続く景色や日光連山に、雪をかぶった白根山の天望を存分に楽しめる山でもあります。
稜線上の皇海山に関しては、登るにしても見るにしても地味な山と思っていたのですが、この中倉山から見ると確かに素晴らしい姿をした山であるということがわかります。
中倉山単体は銅親水公園という日光道からアクセスのよい場所がスタート地点の登りやすい山となり、5月の登山スポットとしては随一お勧めできる場所です。

中倉山登山の概要
中倉山の素晴らしい稜線は足尾銅山が作り上げた景色です、足尾荒廃地と呼ばれるエリアにある松木渓谷の上部が中倉山、松木渓谷を流れる渡良瀬川は皇海山の中腹を源流として太平洋へと流れていきます。
明治10年に日本の4割の銅を算出するに至る足尾銅山ですが、松木渓谷と中倉山の木々のない荒廃した景色は銅山の煙害や、木材の伐採により作り出されました。
岩が露出した異様な景観が続く松木渓谷は「日本のグランドキャニオン」と呼ばれています。
中倉山登山は沢入山まで歩いてピストンで戻ることとなりますが、一応稜線自体は庚申山から皇海山までつながっているため、皇海山登山のスタート地点として利用することができます。
中倉山登山の基本情報
銅親水公園から新緑の渓流沿いに中倉山を目指す

2019年5月25日午前7時15分、中倉山登山口。
新緑が気持ち良い中倉山にやってきました、登山口は銅親水公園から30分以上歩いた先、渡良瀬川尾清流を横目に谷間を走る林道を登って行った先にあります。
中倉山といえば『孤高のブナ』です、ブナの木が新緑で美しくなるころに登りたいなということで今日を選んだのですが、どうやら新緑最盛期……、今日は最高の登山になりそうです。
午前6時25分、銅親水公園。
宇都宮から日光道の終点清滝インターからほど近く、足尾銅親水公園が中倉山登山の起点となります。
日光ということで関東からはアクセスが非常に良いのが助かるところで、朝からの登山に合わせると比較的遅い時間に家を出ることができました。
銅親水公園の駐車場は中倉山登山の時期になると満車になることがあるので、比較的早めに到着することをお勧めします。

昭文社の地図には載ってない山なんだけど有名な山、ということで関東各地から人がやってきます
銅親水公園の駐車場を出発したら、松木渓谷方面へ向かう道を歩き途中で渡良瀬川を横断する形で登山道へと向かいます。
工事用車両が走る道から見下ろす渡良瀬川はとてもきれいな清流です、これが下流で渡良瀬遊水地になるのか……。



源流は皇海山東の斜面、甲武信ケ岳みたいに源流沿いに道があれば楽しい山なのにな……。


銅親水公園から中倉山登山口までは結構遠い、林道をひたすら歩き続けますが長いのでコースタイムを縮めるのは一苦労。


午前7時15分、中倉山登山口。
木漏れ日が気持ちいい林道をひたすら歩き続けようやくたどり着きました、中倉山登山口です。
林道が非常に長い山だからか、マウンテンバイクでここまでアクセスしている人もいました。
道中は林道が続くのですが、若干高層湿原的な景色が広がるところがあったりして楽しいです。



帰りにあのマウンテンバイク貸してくれないかな……。
登山口から先は尾根に上がるためにつづら折りの登山道を登り続けることになります、広葉樹が多く新緑の時期はかなりお勧めできるハイキングスポットでしょうね……。
足元に黄色い蝶がいる?と思ったらこれはキンモンガという蛾だそうです。



蛾と蝶とナメクジだけは本当にダメなので死ぬかと思った!
標高を上げると新緑は芽吹きに、標高はそこまで高くない山ですがエリア的に日光が近いので寒いのかしら?


道中ミツバツツジが奇麗に咲き誇っていました、ミツバツツジが咲いているということはアカヤシオはもう終わっていると思っていたのですが、この後うれしい驚きが待っています。


標高を上げるとだんだん木々の数は減りゴツゴツとした岩が姿を現します。
眺望も開け日光方面の山々が奇麗に見えました、半月山と社山の稜線の向こうに男体山が見えます。
渡良瀬川沿いの山肌は崩れていたり、岩が露出していたりと特徴的な景色が広がります、煙害で生まれた景色とはとても思えない……。
社山側の斜面は意外に木々が茂っているのを見ていて、中倉山側のほうがダメージがあったんだろうか?と考えが頭をめぐる。
稜線側を見上げると笹と低木がどこまでも続いているようで、これはいい景色が期待できそうです。
中倉山から沢入山へ、開放感しかない稜線を歩こう


尾根を登り切ると笹すらない開けた登山道が現れます、中倉山の山頂はすぐそこ。
中倉山から沢入山までの景色がほんとに素晴らしく思わず感嘆の声を上げてしまいました。
前を進む登山者の姿が最高に気持ちよさそうです……。



足尾アルプス名乗ってもいいと思うくらい景色がいい!
午前9時05分、中倉山山頂。
この中倉山から先の稜線、これこそが中倉山最高のビュースポットであることは間違いありません。
中倉山から沢入山までの鞍部にある孤高のブナはおまけで、この開けた稜線こそがこの山のメインディッシュです。
山頂から沢入山までは数回アップダウンを繰り返します、画面真ん中の三角形の山の頂点が沢入山。
その左にある常緑樹に覆われた山が庚申山で、奥に頭だけ見えているのが皇海山です。



あいつが……、足尾の悪魔の姿が見える!!!


沢入山方面を見ると不自然に色が黒い山肌や、山体崩壊が進み続けているような斜面が良く見える。



コレゾ正真正銘ノ禿山ダネ!


孤高のブナですが周囲は山体崩壊を食い止めるように整備されています、周辺は草原状になっていて休憩するにもいい感じ。
ブナの麓までやってきました、角度によっては山の上だとは思えない景色になります、中倉山のシンボルツリーですね。
ちょっとこちらで15分ほど小休憩をとらせていただきました、休憩するにはちょうどいい原っぱが広がっているので……。
孤高のブナを越えると北側が崩壊した稜線の道を沢入山へと向かって歩き続けることになります。
稜線の登山道を境目に草地とブナが広がる山肌と、岩と砂の死の大地といったものが隣り合う状態。


煙害の影響で斜面が真っ黒になったんだろうか?と思うくらい一部山肌の色が変わっています。
社山から見たときもこの中倉山だけ異常に山肌があれてたんですよね……。


沢入山に近づくとなんとアカヤシオツツジが現れました、それも咲きたての!
コンディション的にアカヤシオはないだろうという気温だったのですが、この稜線は少し開花が遅かったのか、沢入山に近づくにつれて花は勢いを増していきます。
午前10時00分、波平ピーク。
中倉山は孤高のブナが有名ですが、次に有名なのがこの波平ピークでしょう。
積み上げられた岩の上からチョロンっと飛び出る枝、絶妙なカーブを描きまさに「磯野波平」を演出しています。
なんでもこの波平ピーク、強風などで飛ばされても登山者によって修復されるらしい。



これ二本だと海平ピークだったんだろうか?
波平ピークにぴったりな枝はどこで生産されているんでしょう、この稜線そんなに具合のいい枝が転がっているようには見えないので、麓から持ってくるんだろうか?
波平ピークを越えるとあとは沢入山まで一直線に登るのみ、目の前にアカヤシオの花が踊ります。


遠く置く日光方面を見てみると日光白根山を発見しました、向こうはまだ雪が残っています。
登山シーズンは6月からという印象の日光白根山、5月は日光連山や足尾の山だと雪がなくてお勧めってわけですね。
沢入山から尾瀬を見る、アカヤシオの道
午前10時25分、沢入山到着。
今日の目的地沢入山に到着しました、中倉山からさらに標高は上がり1,704mとのこと。
標高差でいうと四捨五入して200mくらい沢入山が高いのですが、おかげでアカヤシオが満開という状況でした。
沢入山は山頂周辺がアカヤシオの木で覆われているので花と稜線を楽しむには最高な場所です。
中倉山に登るときはこの沢入山まで来るのを絶対におすすめしたい!


沢入山からはさらに展望が開け尾瀬方面の山々も見えます、双耳峰なので燧ケ岳かな。
日光白根山と同じくまだ雪がたくさん残っているようです、尾瀬の夏は遠い……。


沢入山から直線状にとても目立つ三角形の山があるのですが、これが日本百名山で最も地味な山と呼ばれる皇海山です。
画面左のピークが庚申山、庚申山からはいくつものピークを越えて皇海山へ縦走が可能です。
写真を見ると沢入山からさらに先に道が続いていますが、つまりこのまま皇海山まで縦走が可能です。



絶対にやりたくないけどな!!


登山を始めた年にクラシックルートで登ってしまったため僕の登山の記憶には随一きつい山と記憶される皇海山。
日光足尾の山に来るたびにその姿を探してしまいます、地味な山だと思っていたのですが……沢入山から見る皇海山は百名山にふさわしい堂々とした姿をしていました、これは本当に驚きました。
皇海山へ向かうこの稜線も途中まではとても楽しそうです、庚申山のエリアから樹林が始まる様ですけども……。
沢入山から先も激しい山体崩壊が続いていて、公害の凄まじさを感じさせます。
アカヤシオを見るのであれば、写真にも写っていますが少し下ると群生地があるのでそちらで観察するのもいいんでしょうね。


アカヤシオ越しの日光白根山。
日光白根山は山頂周辺が特徴的で、男体山等の大きな山体を中々見ることができない山だなと思います。
鬼怒沼山等北側から見ても山頂の溶岩ドームの印象が強い。


足尾の王、盟主皇海山。
栃木県が一押しするイチゴの品種、スカイベリーはこの皇海山が元ネタです。
登ったことがある身からするとなんでこんな山深くて地味な山を……と、名前はキラキラネームみたいでかっこいいけど。



履歴書を想像して足尾 皇海(22歳)って思い浮かべてみたけど……、今の時代だと普通の名前に見える。


ミツバツツジが満開の時期ということで全盛期のアカヤシオを拝めるなんて思ってもいませんでした、思いもよらぬ収穫です。
アカヤシオはちょうど全部咲きましたという状況で、とてもいい日に登ることができたなと胸をなでおろしました。
まさに新緑の旬の時期に登山をキメることができたんじゃないでしょうか?


午前11時10分、沢入山から下山開始。
アカヤシオが輝く沢入山からさらに先に進みたいところですが……、帰れなくなるので中倉山方面に下山することにします。
正午近くなり気温はぐんぐん上昇、空の霞も強くなってきました。
沢入山から波平ピークへ戻ると多くの登山客がお昼ご飯の休憩中、地面が露出していて岩が多い沢入山に比べると地面が草原で休憩しやすい波平ピークや中倉山は昼食にはぴったり。



気持ち良すぎる稜線なので……、ご飯食べたらそのまま寝そう、ていうか寝てる人結構いた。


波平ピークから見下ろす中倉山方面、稜線でぱっきりと分かれた山の景観がお分かりいただけるだろうか?
元々ブナなどに覆われた奇麗な山だったんだろうなぁ……。
中倉山までは少し長い登り返しが続きます、気持ちがもう下り一辺倒の時にやってくる登り返しってつらいよね……。
山頂周辺の草原や孤高のブナ周辺でもハイカーがお昼ご飯を楽しんでいました、いつの間にかすごい数の登山者がこの山を登っていたようです。


午前11時55分、中倉山山頂。
そういえばダッフィーを撮影するの忘れてた!というのを思い出し合わせてて中倉山のケルンにダッフィーを配置して撮影、最近忘れ気味なダッフィーですまん……。
下山後は皇海山の登山基地、かじか荘へ
中倉山からの下山はスムーズで、むしろ登山口から銅親水公園までの道のりが長くて苦しかったです。
帰り際に渡良瀬川で遊ぶ登山者の方を見かけたり、僕もあんな奇麗な渓流だったら少し遊んでおけばよかったと思いました。
皇海山方面から流れてくる渡良瀬川は魚もいるようですし、とても美しい渓流なので今度遊んでみたいところです。
足尾の赤い池で有名な鉱滓ダムは足尾駅側にあり、松木渓谷方面にはありませんのでご安心を。
午後1時45分、銅親水公園駐車場。
親水公園へ戻ってきたは良いものの、暑いッ!!!
下山後の林道歩きがめちゃくちゃ暑くて大量の汗をかいてしまいました、幸い銅親水公園のビジターセンターが営業していたこともあり、靴洗い用の水を使って頭を洗ったり顔を洗ったり……、さらには黄金のリアルゴールドで水分を補給させていただきました。



銅親水公園のビジターセンターは設備が整ってるしトイレきれいだし自販機あるし最高でした。


午後2時20分、皇海山登山口「かじか荘」。
松木渓谷や中倉山登山の場合温泉はどこに行けばいいのか?その答えは簡単です、足尾エリアの温泉といえば国民宿舎かじか荘。
そう……あの悪名高い皇海山クラシックルートの登山口でもある場所です、実はこの温泉庚申山、皇海山、備前楯山の3つの山のスタート地点になってるんですね。



皇海山を登った時はこのかじか荘の隣、銀山平キャンプ場のコテージを利用して前夜泊としました。
今登るのであれば庚申山荘を利用すると思います、季節は秋で。
強烈な山の記憶と共に刻まれたかじか荘は温泉の内容もかなり鮮明に覚えている山の一つ、渓流を見下ろす形の露天風呂が気持ちよい温泉です。
入浴後は皇海山の登山バッジと高原ソフトクリームをいただきました、こちらは栃木といえば那須の牛乳という必殺技、きめ細かく濃厚な味が特徴的なソフトクリームを味わうことが出来ました。(スジャータじゃないのが本当に素晴らしい)
ソフトクリームを楽しんだ後、登るべき山、温泉、デザートとできる限りのことはやった……という燃え尽きモードで帰路につきました。
家に着いたのは夕方、やはり日光エリアの山は関東からは抜群のアクセスだなと感じました。


中倉山の稜線……、社山を歩いていた時にその姿を遠めに見てはいたのですが、実際に歩いてみると遥かに素晴らしい稜線だと感じました。
樹林帯が多いこのエリアでは珍しい岩肌が特徴的な急峻な姿の稜線は標高をさらに高く錯覚させます。
アップダウンも程よく、アカヤシオが咲き乱れる稜線というのも非常に素晴らしいと感じました。
この山は袈裟丸山と合わせて日光足尾エリアの山では胸を張ってお勧めできる山です。
特に稜線が好きな人には最もお勧めできる日光エリアの山でしょう。
この登山で散々出てきた皇海山ですが、登山時の記事はこちら。


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