2023年8月24日、北海道は十勝岳連峰の一座「美瑛岳」から「十勝岳」を歩いてきました。十勝岳は大雪山国立公園にある日本百名山でも屈指の名山ですが、その南北にもかなり面白い特徴を持った山々が連座しています。
十勝岳は稜線伝いに南北に名峰があり、南に北海道百名山富良野岳、北に火山が生み出した荒々しい絶壁が特徴の美瑛岳、さらに北には天を指す鋭鋒オプタテシケと続きます。
以前十勝岳を登った際に圧倒的な存在感を誇っていた美瑛岳、その存在感に引き付けられいつか美瑛岳と十勝岳の周回をしてみたいと思っていたのです。
標高2,000m級の山が連なる十勝岳連峰、美瑛岳は2,052mと中々の高さを誇ります。本州でいうと尾瀬や上越国境、飯豊くらいの標高ですがここは北海道の活火山地帯、中腹からハイマツ帯が始まり稜線付近は火山灰が作り出す不毛な景色がどこまでも続きます。
美瑛岳の素晴らしいところは北側から見ると圧倒的なサイズ感を持つ十勝岳の巨大な姿を目撃できるところでしょう。
さらに十勝岳へと続く爆裂火口を歩く稜線漫歩はスリルと景色の圧倒的スケール感により、SF映画の主人公になったような気分になれます。
広大な北海道、地球の息吹を感じる十勝岳連峰美瑛岳の登山の始まりです。
SF映画好きにはたまらない、原始地球を想像させる大地を歩きます!
美瑛岳十勝岳日帰り周回登山の概要
望岳台より美瑛岳を目指して
2023年8月24日午前4時25分、上富良野町。
おはようございます、Redsugarでございます。夏のすべての計画が終了し、子供たちが夏休みの間に実家に帰るぞ!ということで北海道の実家へと帰省しておりました。家族に一日だけ休日を頂いたので深夜車を走らせ十勝岳登山口の望岳台を目指しています。
本日の目的地は十勝岳のお隣にある美瑛岳です。以前十勝岳から見た迫力ある姿がずっと心に残っていて、いつか登りたいと思っていた山でした……、登山口がすごい遠いんだけども。
帯広から上富良野や東川を目指すとやっぱり時間かかるんだなぁ、眠い。
望岳台ってその昔中学生時代に林間合宿か何かで行ったことがある気がするけどもう覚えてません。十勝岳は凌雲閣側から登ったからこっち来たことないんだよなぁ。上富良野ですが早朝は畑から湧き上がる朝霧に覆われて視界がほぼありません、運転していてマジで怖い。
盆地の恐ろしい所は朝の霧だよなぁ……。マジで視界ほぼなかったぞ
午前5時10分、望岳台。
登山口の望岳台ですがすでに結構な車の数です。キャンピングカーも多く8月の北海道アウトドアを楽しむ人たちで盛り上がっています。
観光地でもある望岳台ですが、ビジターセンターがありまして自販機とかトイレはここで済ませることが出来ます。今日のお水は美味しい十勝の水道水なので下山するまで自販機にお世話になることは無いんだけども。
というわけで十勝岳の玄関口、望岳台から美瑛岳を目指して出発です。写真に写っている左側のとんがり山が美瑛岳、頑張って登ろう。
美瑛岳はまず雲ノ平分岐と呼ばれる場所を目指します。北アルプス以外にも雲ノ平っていう地名はありまして、十勝岳以外にも大雪山黒岳の近くに雲ノ平と呼ばれるお花畑地帯があります。
望岳台からの十勝岳ですが、昭和噴火口や現在も噴気が沸き上がる62-II噴火口の近くを通って山頂を目指すという結構すごいコースになっています。
望岳台からは最短で十勝岳を目指せるけど……、前十勝の噴火口群が怖いからあんまり歩きたくない。
望岳台周辺は荒涼とした大地が広がっています、栄養が乏しいんだろうな……。上富良野町方面の原野がだだっ広い。
原野って北海道だとよく聞くけど内地だと聞かないかもしれない。北海道内では北にあるサロベツ原野が有名ですが、それ以外にもオホーツク海側にある原生花園と名の付く場所は開拓者の手かつかなかった自然が残っている場所が多いです。十勝岳連峰の裾野は東西どちらも原野だけど、新得方面のほうが未開の地感があります。
午前6時00分、雲ノ平分岐。
望岳台をスタートしていた登山者ですが、僕意外全員が十勝岳を目指して直登していきます……美瑛岳誰もいかないのかよ!だれか行ってくれよ!怖いよ!!
望岳台は百名山十勝岳のメイン登山口でもあるから仕方がないということを理解しつつも、ちょっと一人で美瑛岳目指すの怖いなーという気持ちがあります。主にヒグマと地形の観点で。
熊スプレーは持ってきたけど、こんなもん正直気休めにしかならないというかスプレー使わないといけない状況って無傷では済まないと思うから嫌だよなー……、とにかくこちらの居場所を知らせることを心掛けないと。
雲ノ平分岐から見下ろす上富良野方面ですが、市街地にはいまだ朝霧がかかっているのか真っ白な霧のようなものがかかっています。
見上げると十勝岳避難小屋が見えます。十勝岳避難小屋から先は草も生えない生きた火山の世界……内地であれば賽の河原とか地獄の名前が付けられるような景色が続きます。
北海道の山は内地の山と違って抹香臭い名前とかはあまり見かけません、我々和人の先祖が開拓したのがそもそも近代なので神仏習合的な山岳信仰って……聞いたことがない。帯広の剣山とか??
北海道の深山はアイヌの人々の作り出した宇宙が眠っているというか、仏教以前の原始の山の姿があるっていう感じがあるのはそういう所も影響してると思うんだよね。
足元に目をやると咲いているのはエゾオヤマリンドウです。ミヤマリンドウよりも明らかに花が大きく、色も結構違います。十勝岳周辺では8月以降の花になります。
北海道登山ですが、ベストシーズンは7月です。8月はもう晩夏という感じでして、お花を楽しめるベストシーズンは7月前半から7月末とRedsugarは考えています。当ブログの北海道の夏山は大体内地が梅雨で苦しんでいる7月中旬くらいのものが多いのはそのためです。海の日連休付近は関東甲信は梅雨後半だけど、北海道は夏真っ盛りなので夏休みを合わせる場合はそこがおすすめ。
美瑛岳方面は十勝岳に比べると登る人が圧倒的に少ないということもあり、登山道が一気に細くなります。十勝岳は本当によく整備されているから歩きやすいんだけど、隣の美瑛岳はちょっと道が怖い。
細いハイマツ帯を歩いていくと広大な針葉樹林帯の中に落ちた巨大な火山岩が磐座となって浮かび上がっています。内地と違って人の手垢がついてない原始的な風景に見えるから不思議です。
美瑛岳に向かう中で日陰から日向へと登山道が移り変わります。エゾオヤマリンドウやイワギキョウの花々がお出迎え……とってもきれいなお花が沢山咲いていますが、紫成分多めだな。
美瑛岳方面から眩いばかりの輝きが!!!8月後半に歩く美瑛岳ですが、びっくりしたのはこの太陽と爆裂火口直下にとどまる湿った空気がもたらす美しい景色でした。ハイマツ帯と交互に現れるお花畑を進んでいくと一気に景色が開けます。
ポンピ沢の源流がある美瑛岳南の爆裂火口付近は巨大な谷間を形成していて、そこに朝霧がたまっています。差し込む朝日がゴッドレイ、薄明光線を生み出しているんですが……超神々しい。
この写真を現像している際に驚いたのですが画面中央に大きな鳥が飛んでいます、見つけたときは興奮してしまった……。
十勝岳側から流れ込む斜面、美瑛岳から降りるギザギザの斜面、一番奥に爆裂火口の崖と折り重なる山肌に沿って光の線が描かれていました。すごい興奮する景色だった。
雲ノ平分岐点からは実は十勝岳の北側の斜面をトラバースするように美瑛岳へと向かっています。十勝岳は生きた火山であり、中腹くらいは火山性の土壌で植物なんて全然ないし、雨が降れば窪地に沿って水が流れるガリー浸食が発生する場所です。美瑛岳本体の登りへ移る直前、その火山性の土壌の洗礼を浴びることとなります。
午前6時50分、函状沢。
地図に函状の沢地と書かれているのがこちらの地点。深さ数メートルくらいの谷を形成している枯れ沢に降りて登り返すという美瑛岳登山で一番怖い地点になります。火山性の大地の底に降りるって滅茶苦茶怖いなと思ったのがこの地点でした。
十勝岳って富士山や岩手山、浅間山に姿形は似ているけど、登山道の不気味な感じは圧倒的に十勝岳の北側です。先にも書いたけど人慣れしてない自然が横たわっている感じがあるんだよな……。沢底に降り立った時も雰囲気がとても寒い、直ぐにここから出たい!という気持ちが沸き上がります。
降りる際はロープを利用しますが、脱出する際はくたびれた梯子を登りますが……これめっちゃ怖かったぁ~。
午前7時5分、渡渉地点7:05。
函状沢を越えるとすぐにポンピ沢渡渉地点がやってきます。この渡渉地点結構道がわかりにくいです、ピンテは見つけたけどどこから渡ればいいのか5分ほど探してしまいました。ここは増水すると渡れなくなる場所と聞いてました、流れは急だし地質的に脆いし……その理由がよくわかります。
美瑛岳の語源は油ぎったという意味のピイエということで、硫黄成分の流出がポンピ沢にはあると思っていたが、全然普通の沢だった。上に行けば水が白濁するのだろうか?
美瑛岳山頂、十勝岳を拝む最高の場所
ポンピ沢を渡るとすぐに急登が始まり、美瑛岳山頂目指してきついつづら折りの登山道を歩くこととなります。
望岳台から美瑛岳に向かう道を往路にしてよかったと思える程度には急登で、幌尻岳チロロ林道のヌカビラ岳の登りを思い出します。最初は苔むした岩がゴロゴロと転がる道から始まり、徐々に松の落葉が目立つ穏やかな道に移り変わります。
見下ろすとさっきまで歩いていた登山道が見える。函状沢がめちゃくちゃデカい、その後は結構ハイマツの中をくぐって歩いてたんだな。
かなりの急騰なおかげで一気に標高が上がります。登山道の中は鬱蒼とした茂みの中が続き、背の高いハイマツとシャクナゲといった植物の中に登山道が通されている感じ……。足元は結構良好なので斜度の急さ以外は問題なし。
森林限界に近づいてくるとだんだんハイマツの背丈が低くなってきますが……北海道の山を歩いていると「ハイマツってこんなに背が高い植物だっけ?」と思わされる。
雌阿寒岳とかハイマツがすごい背が高くて、ハイマツトンネルで苦労した覚えがあるわ……。あと幌尻岳のハイマツトンネルもやばいね。
午前7時35分、美瑛岳分岐。
美瑛岳の望岳台側ですが西側斜面ということで早朝は全く光が当たらず。薄暗くてクマが出てもおかしくない不気味な樹林帯の登りで本当につらい道でした……無事に稜線に出たときの開放感よ。
樹林帯が終わると目の前にいきなり岩稜帯のお花畑が現れます。ここでルートが分岐して美瑛富士~オプタテシケ方面と美瑛岳山頂~十勝岳方面に分かれます。
稜線は古い火山らしい景色で、白い火山岩が草地にゴロゴロと転がる光景が山頂まで続きます。内地よりも寒い北海道ということで、足元に生えている植物の様相が全然違うけども。
稜線に出てもイワギキョウはきれい。
美瑛岳は十勝岳よりも古い火山で、山肌を歩いていても山頂部まで地衣類的な植物が続きます。写真に写るような岩と植物の光景は火山でもよく見るけど、現在も元気がいい十勝岳だと植物がなくなるっていう。
美瑛岳の稜線からは雲と見間違えるくらい大量の白い息を吐き出す噴火口がよく見える。いろいろな火山に登ってきたけど元気の良さでいうと今のところ十勝岳が一番。
北海道も観光地化された火山が多い所です。アトサヌプリ、登別地獄谷、昭和新山、雌阿寒岳、旭岳と色々ある。奮起の轟音が凄まじいのは雌阿寒、旭岳で離れていてもゴォオオオオッと音が聞こえて怖い。
分岐点から美瑛岳の山頂まではコースタイムで見ても1時間以上あり、長い登り坂を歩くことになります。
上を見上げると空に向かってピコっと飛び出た山頂が見えるのですが、なかなか近づかない。
写真のような背の低いハイマツが広がる斜面を延々登ります、見晴らしはよく歩いてて気持ちのいい個所ではある。
山頂近くまでやってくるとびっくりするくらい雄大な景色が目の前に広がり始めます、北海道 is でっかいどう……。
十勝岳ってこんな雄大な景色が広がる山だったんだと初めて知りました、南側よりも北から見たほうが凄い!
美瑛岳から見る十勝岳はいまだ活発に活動する火山らしい見た目、草木が生えている雰囲気が全くありません。
あそこだけ岩石惑星っていうか、宇宙を感じる景色が広がってそう。
こちらは美瑛岳から十勝岳へと向かう稜線部分ですが、美瑛岳の爆裂火口の上を歩いていく形になるようです。
爆裂火口のサイズはかなり大きく、安達太良山とかが好きな人なら美瑛岳も楽しいのでは?
山頂が目の前ですが、東からすごい勢いで雲が上がってきました。晴れている間に登頂できるかな?
山頂に近づくと美瑛岳西部から北部にかけての斜面が見えるようになってきました。栄養が乏しい火山特有の景色が広がります。
午前8時45分、美瑛岳山頂。
念願の美瑛岳山頂に到着しました、何とか快晴のうちに登れたのがありがたい。十勝岳から見たときは断崖絶壁にしか見えなかった美瑛岳、登ってみると野性味あふれる火山地帯を歩ける面白い山でした。
そして何よりも、美瑛岳から見る十勝岳は百名山に相応しい威風堂々とした姿であることに感動してしまいました。
美瑛岳稜線から常に見え続けた十勝岳ですが、いくつもの噴火口を持つ複雑な火山でありながら、山頂に向けて整った形をした美しい山ではありませんか。ここから見る十勝岳には名山の風格というか、威厳がありますね。
こんなシンプルに美しい二等辺三角形を描いた山だとは思わなかった。
この先は生きた火山十勝岳を目指して歩くことになりますが、道中もアドベンチャー感が満載のようです。こちらは美瑛岳から十勝岳へ向かう爆裂火口の壁、十勝岳から美瑛岳を見たときはこの地形が持つ迫力が魅力の一つでした。美瑛岳側から見ると高度感を伴いより緊張感が漂います。
午前9時05分、美瑛岳分岐。
山頂を出発し爆裂火口沿いに十勝岳を目指します。山頂から分岐点までは写真のように噴火で片側が絶壁となった山肌をトラバースするような道を進む。写真の右側ってストンと落ちるように地面がなくなってるんだよな……。
ほかの山だと白馬杓子岳が似たような地形をしていますが、地面の不安定さは圧倒的に美瑛岳、緊張があるぅ~。
地図上でも「岩場が続く足元注意」と書かれた爆裂火口上の稜線地帯。分岐を過ぎると道は斜面からピークへと移動し、十勝岳を眺めながら歩き続ける状態になります。美瑛岳方面から見る十勝岳は本当にかっこいいな。
鋸岳と平ヶ岳、火山灰に覆われた稜線
崖下を眺めてみると今にも崩れそうな洞門が見えます。その向こう側は遥か500mくらい下ったところに谷底、火山礫の斜面だからズルズルですよ、おっそろしぃ~。
荒々しい爆裂火口縁の稜線の向こうに見える十勝岳、片道2時間30分で山頂ということですが、景色がよすぎるので時間の長さを感じさせない山歩きを楽しめます。
爆裂火口縁の稜線地帯はお花畑が続いています。美瑛岳分岐から少し進んだあたりが花の勢い良し。
シーズンであればキバナシャクナゲ、エゾツガザクラ、イワウメといった花が足元の登山道を彩ってくれるんだとか。
8月後半でもいろいろな花が咲いていた美瑛岳稜線、でもなー7月後半あたりが一番魅力的な時期なんじゃないか。
十勝岳へ向かう最中どんどんガスが上がってきました……。新得方面に雲があるのは確認していたけど十勝岳までの道中でガスに包まれると五里霧中な状態になりそうで怖い。
ガスは美瑛岳山頂へ向かい、縦走路は晴れてくれました!
火山砂礫の広い頂稜が伸びる気持ちのいい登山道があらわになります。この道はとても長いけど景色が最高なので全く飽きない。
この後数人のランナーとすれ違いましたが、聞けばこのコースはランナーにとっては最高に気持ちがいいんだとか。確かにここまで歩きやすくて景色がいいと……楽しいだろうな。
美瑛岳の山腹を振り返ると爆裂火口内部の複雑な地形や、特徴的な磐座をいくつか見出すことができます。
爆裂火口の美瑛岳、地層が見える部分から下は砂礫でストーンと落ちてます。
美瑛岳の山肌に突き出た地層、立派な磐座に見えますね。
片側が切れ落ちた爆裂火口縁の稜線から広い頂稜を通る稜線部までやってきました。ここから先は「雄大な北海道の大地を歩く」みたいな言葉がぴったりといえる穏やかな道が続きます。
十勝岳が近づいてきますが雲も多くなってきた……。
十勝岳方面から数人の登山者が縦走でやってきました。歩いていると何とも絵になるなぁっていう瞬間が多い。
十勝岳手前の平ヶ岳へと向かう登山道を歩く登山者、この道を歩く姿はSF映画の1シーンみたいになるので面白いです。十勝岳連峰は「地球ってスゲー!」という気持ちを抱ける日本では数少ないエリアの一つ。
十勝岳連峰は上富良野や美瑛方面の登山道は多いのですが、新得方面からは一本しか道がありません。東側は控えめに言って原始世界というか秘境。高校時代にサホロリゾートはスキーでよく訪れたが、サホロから奥地は人間の世界じゃない。
新得コースの登山口ってサホロリゾートの奥にあるのですが、舗装路はサホロ湖まで。登山口に続くシートカチ林道、トノカリ林道はどれも砂利道だし今は老朽化のため通行止め。
十勝岳の本体に近づいてきました、見上げた先は鋸岳といいまして偽ピークです。その奥に平ヶ岳、十勝岳と続きます。足元は火山砂礫でジャリジャリとしたテクスチャですが反発はしっかりしています。どの辺から足が埋まるような砂地になっていくんだろう……。
雲ノ平とか平ヶ岳とか内地にある名所の名前がたくさん出てくるんだよなぁ。
でた、火山砂礫の荒野だ……。悪天候だと方向見失う危険な感じのやつ。この辺は巨大すぎる砂山に敷設された登山道をただひたすら歩き続ける作業感が漂います。写真二枚目、振り返った時に見える美瑛岳が心の癒しです。
登山道は鋸岳を回り込んで平ヶ岳との鞍部へと登るのですが、鋸岳の直下が火山灰地で足が埋まるほどの砂地です。一歩進むだろ?半歩下がるんだよ……という辛い登り坂が続きます、写真撮ってる余裕がゼロになるくらい大変だった。
今日歩いていて一番体力使ったのは間違いなくここ。火山灰地を登るって本当につらいよ。
十勝岳、原始地球のような荒地からの脱出。
砂地を登りきると目の前に見慣れない景色が現れます。この手の景色はNHKの地球誕生とか火星探査で見るような??これが北海道の平ヶ岳で、火山灰が形成した巨大な丘陵状のピークです。山肌は雨が作り出したガリー浸食(雨裂)が特徴的な模様を作り出しています。
細溝が何本も走る平ヶ岳山腹ですが、なんとも言えない不気味さがあります。登山しない人生だったらリアルよりもフィクションの中で見る機会が多い景色だと思う。
周囲を見回しても緑の気配は全くない。生命の痕跡が全然見当たらない死の大地にやってきた気分だわ。
台地状になっている平ヶ岳を登っていく最中は錯覚的に奥行き感を失ってしまう縞模様の斜面が目に入ってくる。見た瞬間平面的でぺらっぺらというか奥行きがバグる光景。
振り返って鋸岳方面を見ると……ガスのおかげで日常からかけ離れた景色が広がってる、あの世じゃないんだから。
十勝岳山頂側もいつの間にかガスが湧いて真っ白になりました。等間隔で指導標が置かれてますが、悪天候だとこれは道を見失いそう……。
平ヶ岳は台地状と言いましたが、登りきると十勝岳まで平坦な道が続きます。山頂っていうかお盆の底みたいな感じがする、周囲を見回しても火山灰が作り出す灰色の景色がずーッと広がる。
目の前の十勝岳山頂だけが目立つ場所。
午前10時45分、十勝岳山頂。
美瑛岳の分岐点から約2時間で十勝岳山頂に到着となりました。鋸岳までは晴れてたんだけど、平ヶ岳でガスに追いつかれて十勝岳山頂に到着するころには景色が真っ白になってしまいました……、今回十勝岳はオマケなのと平ヶ岳まで青空で歩けたから良しとする。
平日かつガスに覆われてるけど山頂を訪れる人は多く、百名山ブランドってやっぱりすげぇよ。
十勝岳の山頂って登山者が残していった石細工があったり。岩に名前彫られてたりと結構ファンキーな場所だよね。
望岳台への下り坂ですが、そこを登る登山者たちが火山地獄を延々歩かされる人みたいになってる……。ガスもあるおかげで完全にあの世っぽい景色。
望岳台方面も雨裂が結構すごい、というかこちらのほうがガリーがでっかい。望岳台から十勝岳は絶賛噴気放出中の火山の隣を通るだけあってかなりの迫力がある景色が続きます。
十勝岳から望岳台までは昭和噴火口、擂鉢噴火口等の旧噴火口を縫うように作られた道を歩きますが、ガスが出ているとすごく迷いそうな……。夏道がわかる季節は良いのですが、残雪が残っていたりする時期だと容易に道迷いしそう。
幅の広い頂稜を降っていくのですが、登山道を覆うガスが雲なのか噴気なのか……。時折硫黄の香りが漂うことからも、いまだに活発に活動を続ける62-II噴火口から湧き上がる噴気が登山道へかかっているのでしょう。
午前11時25分、昭和噴火口。
山頂から40分ほど降りてくると巨大なクレーターが姿を現しますが、これが昭和噴火口のようです。どこかで見たことあるなと思ったら富士山の宝永山とか岩手山とか雌阿寒岳とか、真っ黒な砂の上に火山灰でも育つ健気な植物がポツポツと緑を添えています。
前十勝から十勝岳山頂まではたくさんの噴火口があります。グラウンド火口と呼ばれる場所では過去150年間の間に5回の噴火記録があり多くの方が泥流で命を落としてきました。1926年の噴火では泥流が25キロメートル先の上富良野原野へ達するなど噴火の威力はすさまじく、144人の死者行方不明、建物372棟が失われる大災害となりました。さらに新火山弾3,000平方メートルが火口周辺に放出と……今回の記事でたくさん写真に写っていた巨石もこの時のものがあるのでしょう。
昭和のタイミングでも噴火は続き、平成元年……2024年からすると35年ほど前にも噴火しています、クリスマスに噴火するというありがたくないプレゼントともいえる爆発は記録が色々残っていました。数度の爆発を経て科学技術も発展し、幸いにして死者は出なかったようです。
噴火のたびにこの原野を火砕流が駆け下りていったのかぁ……、25キロも先まで泥流が降るのいうのが想像しがたい。
山は逃げるというけど、火山はまさに逃げる山筆頭だとは思う、活動期に入ると数十年単位で登れなくなってしまうこともあるから。
十勝岳避難小屋が見えてきました。一瞬牧歌的に見える景色ですが、前述の噴火により降り注いだ新火山弾の名残石と思うと恐ろしいものがあります。
グラウンド火口方面を見上げると雲の下からゴーゴーと噴気が沸き上がる様がよくわかります、えー……登山道めっちゃ近くを通ってたんだね。
午後12時10分、十勝岳避難小屋。
上富良野原野を見下ろす十勝岳避難小屋、開放感抜群ですが足元の具合が結構良くない。細かい砂利が浮いていてちょっと歩きにくかったのです。実に火山らしい足元に手こずりながら望岳台を目指します。
避難小屋を過ぎればあとは写真のような道をひたすら降って望岳台を目指すだけです。石がとにかくゴロゴロしていて降りは歩きにくい、ここはストックがあったほうが絶対に良い。
望岳台までとにかく長かった……、間延びした登山道を歩き続けるのですが登山あるあるの「麓は晴れてる」が発動しまして、標高も下がって気温も高い中ジリジリと太陽に肌を焼かれながら下山しましたよ。
見返すと山頂だけ見事にガスの中ですね、美瑛岳も山頂は雲の中に隠れちゃったよ。
午後1時00分、望岳台。
下山してみると望岳台は観光客とキャンパーで賑わっていました、夏の北海道を満喫するキャンピングカー勢にとって望岳台は登山基地としてもキャンプサイトとしても気持ちが良い所なのかも?
望岳台の自販機で下山祝いのジュースを購入しましたが、自販機の周囲には超巨大な蛾が大量に居まして……購入は難儀しました、蛾はマジでダメなんです私。
十勝岳下山後の温泉はどこに入るか?凌雲閣から少し離れた望岳台であれば吹上露天の湯がおすすめです。十勝岳周辺の温泉でもぶっちぎりで高温を誇る吹上温泉は登山の疲れと汗を綺麗さっぱり上書きしてくれます。
以前の北海道大雪山トムラウシ縦走でも前夜に入浴しましたが……相変わらずめっちゃ熱かった。
僕が生まれた頃は36度ほどの源泉温度だったらしいのですが、平成元年の噴火以降温度が上がり57度を記録したとか。火傷しちゃうぞっていうくらい熱い吹上温泉。夏場は川の水をブレンドした状態ではあるのですが、一番熱いお湯は足をつけるのも厳しかったです。
吹上温泉で汗を上書きしてサッパリしました。実家に帰ろうということで車を走らせますが、お土産を購入するのに立ち寄ったのは南富良野の道の駅。巨大なモンベルが併設されていて登山用品を調達するには良い場所です。
こちらの道の駅のソフトクリームは間違いない美味しさ、北海道のソフトクリームはどこで食べても美味しいんだけど、南富良野の道の駅は生クリーム的な濃厚さが抜群でした。
その後、道の駅で野菜などのお土産を購入後道東自動車道で十勝の実家へと家路を急ぐのでした……。
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