2025年4月30日、埼玉県は飯能市と東京都奥多摩町にまたがる棒ノ嶺へ登り、東京都青梅市沢井駅にある澤乃井酒造まで歩いてきました。棒ノ嶺の標高は969mで、春から初夏にかけて山腹にある白谷沢の渓流を歩いて登るコースは潤いと新緑に身体を浸すような登山ができることで関東では人気の場所です。
登山を始めたばかりの方々にもお勧めされる棒ノ嶺は紹介される書籍も多いのですが、今回は棒ノ嶺から奥多摩町方面にある岩茸石山へ向かい、東京都青梅市の駅である沢井駅を目指す埼玉東京縦断コースで歩きます。
棒ノ嶺自体は麓にあるさわらびの湯と合わせた温泉登山が魅力的ですが、今回の登山では山歩き後に楽しむささやかな酒宴を目指すことになります。奥多摩の清流を使った「東京の日本酒」である澤乃井さんを埼玉県から目指します。
redsugar京浜東北線沿線の埼玉県民になってすぐに、「赤羽の関所で通行手形見せないとダメでしょ(笑)」といじられました。今回紹介するコースはその意味からすると脱法越境、飯能から青梅へ山を越えて東京都へ行くのです。お天道様の下で頂く地酒の味を最大限受け止めるための助走登山の始まりです。
棒ノ嶺惣岳山日帰り登山の概要
新緑の白谷沢の空気に触れる






午前8時25分、名栗湖バス停。
おはようございます、Redsugarでございます。
本日は棒ノ嶺から青梅町にある沢井駅を目指して歩こうとやってきました。
25年の4月末、同年6月に銀座COCO PHOTO SALONで開催した写真展の準備で僕はもう生活もままならないほど焦っていたのですが、「棒ノ嶺の杉林すごかったですよ!」という言葉を聞きつけて久々に登ってみようかなぁと。
展示の準備に集中しすぎて体調崩したらどうしようもない、気持ちよく新緑登山に行こう!ということでやってきました名栗の里。



飯能駅からバスに揺られてさわらびの湯の真下で下車しました。




名栗の里から棒ノ嶺に上るためにはまずは名栗湖を目指します。道を彩るのは武州世直し一揆と書かれた壁画です。
一揆だ!一揆だ!とふざけたくなるような壁画ですが、これは慶応二年(1866年)に名栗村から始まった武州一揆の様子を描いた壁画になっています。武州一揆は6月13日に蜂起し19日に壊滅を迎えてしまうのですが、打ちこわしの被害にあった村は200を超え、一揆に結集した民衆は10万人ともいわれる江戸を揺るがす事件だったのです。



横浜開港による貿易の展開に加えて第二次長州征伐で山村では米価が急上昇。生活苦に陥った人々が商人の打毀しに走ったということらしいです。歴史的に、米が不足するというのは大変なことが起こる。


世直し一揆の壁画を通り過ぎ、急な車道を登り続けると名栗湖ダム上部にやってきます。まだ朝早いというのにバイクに跨った方々が続々と集結してきます。どこまでツーリングしに行くんでしょう。


水を蓄えた名栗湖の上には萌黄色や藤色を携えた山肌が食い込むような角度で立ち上がっています。
ダム谷に水を貯えるから、山の中腹くらいにいきなり水面が現れる。つまりリアス式海岸みたいな、尾根が水にすごい角度で食い込んでいくみたいなことになる。


棒ノ嶺を登って降りてくるだけなら、この湖畔をもう一度歩くのですが。今日は埼玉県から東京都へと越県する登山になりますから、周囲の景色を見れるのはこの一回だけです。



山は逃げるとか、景色は変わらないとかいうけどそんなことはない。自分の環境は変わって山には行けなくなることはよくあるし、景色はよく見れば刻々と変わって1度たりとも同じ景色はありません。方丈記の出だしを頭に思い浮かべて景色を見れば、すべてを写真にして留めておきたくなるほどに変わっていく。人生において現在はいまここにしかないのです。


午前9時5分、登山口。
バス停から30分以上歩いて登山口にやってきました。棒ノ嶺ってバスを降りてから登山口まで意外に遠いんだよねと再確認。人気の山だけあって登山口にはいろんな看板やら登山届ポスターやらが備え付けられています。


入山してすぐに、以前訪れたときには気が付かなかった社があるのに気が付きました。まだ新しく見えるその社には日本酒が捧げられています。何を祀っているんでしょう……。


最初は白谷沢を目指して樹林帯を歩くわけですが谷を通る登山道は新緑を帯びたやや緑がかった光が降り注ぎます。



萌黄色の光。




水の音が大きくなってくると白谷沢の渓流と苔を纏った岩が織りなす瑞々しい景色が登山者の前に現れます。
新緑シーズンは空気もひんやりとしていて、だけど潤いがある空気があたりを包んでいて気持ちが晴れ晴れとします。



空気に触れる肌が、触覚が心地よさを覚える時期。


苔むした岩が折り重なる白谷沢の谷底を歩いてゆくと、渓流の中を渡る素敵な場所がやってきます。
棒ノ嶺は入山からほどなくして、苔と清流を楽しめるからありがたいものです。考えてみれば、道が整備される前はここも深山だったんだろうなぁ。
白谷沢から棒ノ嶺山頂へ


午前10時5分、白谷沢。
白谷沢のハイライトは写真の地点で、川底から尾根に向かって岩場の道を鎖を頼りに登っていきます。
岩の隙間に水がジャバジャバと流れており、足の踏み場を探しながら進む感じはアスレチックで楽しい。


登山道がある谷底の左右には巨大な岩の壁。地質が好きな方は面白がれるであろう模様が上部まで広がっています。


鎖を頼りに岩場を登り、新緑の葉から黄緑色の光が降り注ぐ沢沿いの登山道へ。さらさらと流れる小川の流れと、木々がこすれる音、鳥のさえずりが響き渡る道を一歩進むごとに気分が高揚する。


植林地帯に入り込んだ日差しも新緑を照らして、黒に黄緑が浮かび上がる。


林道を跨いで岩茸石を目指します。斜面沿いに作られた緩やかなカーブを描く登山道は歩いていて楽しい道で、遊歩道といったほうが納得ができるほど。


午前10時45分、岩茸石。
棒ノ嶺の中腹には尾根の肩にのったような巨岩「岩茸石」が現れます。山頂までは植林地帯をひたすら登ることになりますが、一息つけるベンチもあるので辛い場合は小休憩を。






岩茸石から先は植林地帯をひたすら登ります。意識してみたことがなかったけど、棒ノ嶺山頂直下の植林地帯の木の根は張り巡らされた毛細血管のようで、曇り空の下で見たら恐ろしいかもしれない。
木漏れ日が差し込むような天気では、木の根としてしか見えないけども。時と場合によっては木の根が描く線が何か別のものを意識させる瞬間があるのでしょうね……。






午前11時25分、棒ノ嶺。
山頂の一本桜は萌黄色と浅緋(うすきひ)色が絡み合う新緑の様相。東屋から木陰の下まで、お昼ご飯を楽しむ登山客でにぎわう棒ノ嶺です。関東ふれあいの道マークが刻印された山頂看板多くには秩父方面の山々が横たわります。
棒ノ嶺・棒ノ折山には畠山重忠が鎌倉へ向かう道中、使っていた杖が折れたという故事に由来があるという話もある山です。日本は国土の半分以上が山という山岳国ということもあり、有史以前にも人々は山に登っていたといわれています。(御坂釈迦ヶ岳(1,641m)からは縄文土器が出土していたり。奈良時代では山岳修験の場として四国石鎚山が開かれています)
ケネス・クラークの風景画論などを見ているとヨーロッパでは1336年にペトラルカが山を登った以前、「山を登る」ということは悪魔の住処に立ち入ることで誰も興味を示さなかったと書かれていることと比較すると、日本に住んでいた人々と山のつながりの深さに関心がわきます。
ペトラルカの登山は当時否定的に扱われていたと論じられますが、森を切り開き自然を克服すべき対象と見た西洋文明は、大航海時代と植民時代を経て、世界各地の山を征服するように歩くようになります。アルピニズムを自然を克服すべき対象と見た西洋史の延長としておいてみる視点も面白いのかもしれません、近代的なチャレンジとしてではなく。



ここから日向沢ノ峰まで歩いて、そこから有間峠・ウノタワ・武甲山と歩いていけば秩父か横瀬に降り立つことができます。
棒ノ嶺から惣岳山を目指して


写真は棒ノ嶺から奥武蔵の山々を眺めた状態。濃い緑に包まれた山々の奥に北関東の平野が見えます。
拡大して眺めていると、稜線上には建物の屋根が見えたり、斜面には畑のようなものが見えたり。






山頂から少し引き返し、小沢峠と書かれた分岐点がある場所まで戻ってきました。この地点は地図上では権次入峠(ごんじりとうげ)という場所で、奥多摩方面へ向かう尾根道が南に向かって伸びていきます。
棒ノ嶺コースと比較すると人の気配は消え去り、とても静かな尾根道が始まる……。



すれ違う人が少ない道でした。そんな中でも東京都のレンジャーさんが巡回していて、道の整備をしていてくれます。


尾根道は新緑が美しく、萌黄色の葉がチラチラと揺れ動くのが眩しい。


午前11時55分、黒山。
最初のチェックポイントとなる黒山までは分岐点から15分ほどで到着します。ここまでは静かな山歩きでしたが、ここからさらに静な道が続きます。本当にひと気がない。



棒ノ嶺と高水三山というメジャーコースを繋ぐ尾根がこんなに静かだったとは……。


道は整備されていて幅が広く、降り積もった木の葉が細かく砕かれ柔らかい皮膜を土の上に作り出しています。足に伝わる感覚は軽やかで、一歩進むごとに次の一歩を求めてしまう。



足の裏に伝わる感触が気持ちよくて歩きたくなるっていう道が世の中にはあります。ウッドチップの道とかはわかりやすく、歩いていて気持ちがいい。高層湿原に切られた道とかもいいですね。低山だとやっぱり、落ち葉が分解された層が積もっているところが歩きやすい。


尾根筋は所によって樹高が低く、生い茂った木々が作るトンネルを潜っていくような道が続きます。




午後12時15分、やまびこ広場。
棒ノ嶺以降は眺望はないものだと思っていましたが、やまびこ広場と呼ばれる個所に到着すると奥多摩方面が切り開かれていて、とてもきれいな三角形の御前山を眺めることができます。



写真を拡大するとわかるんですが、一応御前山と大岳山の間に白い富士山の頭が見えます。


小刻みなアップダウンを繰り返しつつも基本は下り基調となる棒ノ嶺・惣岳山区間。登山道から斜面に向かって倒れた杉の木たちが立ち並ぶ個所は不思議な生き物が並んでいるような……。






午後1時20分、岩茸石山。
黒山から約一時間ほど緩やかな尾根道を歩き続け、高水三山を構成する一座である岩茸石山に到着しました。東京都方面が切り開かれていますが、もりもりと育つ若木のおかげでそこまで眺望がいいわけではありません。



人気のコースである高水三山の一座ということもあり、山頂には新しいベンチも作られていました。時間帯的にピークを過ぎていたのか、人の姿がない静かな岩茸石山でした。
惣岳山から澤乃井園へ、疲れを吹き飛ばす夏酒を求めて


惣岳山を目指して歩くと、棒ノ嶺では見ることがなかったヤマツツジがたくさん咲き始めていることに気が付きます。
春の低山といえばヤマツツジで、ツツジの中でも一番元気に見える色をしていると思う。


惣岳山方面は人の手がかなり入っていて、植林地帯は整然とした列柱構造の世界。尾根を境目に薄暗い緑の砂漠である斜面と、自然林の明るい斜面がぱっきりと別れています。遠くから見てパッチワークに見えるような山肌の端っこはこうなっているんですね。


突如として景色が開けた、と思ったら伐採された広大な斜面が目の前に現れます。惣岳山の北側斜面となり、新しい植林を行っているようです。人工的な肌理が見て取れる山肌、伐採直後は禿山の様相だったに違いない。



以前歩いた戸倉三山でも伐採斜面を見ました。茶色く土が露出した斜面はその後の植林でこういう感じに変わっていくんだろうなという予想が立ちます。


斜面に残された3本の杉はランドマークなのだろうか……?惣岳山山頂に向かうコースと、巻き道があるのですが間違えて巻き道に入ってしまいました。



いや、巻き道のほうがどう見ても楽しそうだったから……。


振り返ると植林地帯と自然林の境目がわかりやすい景色が……。植林用の斜面ってこうやって何度も利用されるんですね。






午後1時55分、惣岳山分岐。
巻道を利用すると、そのまま沢井駅に直通で降りる道へ案内されます。ひと気のないルートですが倒木は処理されているし綺麗です。降りていくにつれて里山的な植生の移り変わりを感じます。



標高900mの山を上り下りするだけでも、垂直の植生というものの変化を感じることができます。


真向かいにおにぎりのような形をした山が見える……、浮かび上がりませんか?山肌に。
山の中にきれいな三角形が見立てられませんか?こういう景色の中に何かの形を見立てることは先史時代から行われてきたらしいのですが、決して「想像の角度で世界を見続けている」わけではないと思うんですよね。
その形や線を目の当たりにしたとき、自分の中からイメージが引きだされる、そういう相互作用があるんじゃないかなぁと、港千尋氏の本を読んでいたりすると感じます。




午後2時45分、下山。
沢井の駅前に下山しました、線路の北側に降りますが……下山した後に向かうところは駅ではなくて澤乃井園です。
そして、澤乃井園にはビールがありません。下山後の宴のためにはまずビールがなくてはいけない。
ご安心ください、澤乃井園の対面には酒屋さんがあり、自転車愛好家やランナーの方々が訪れる角打ち可能な酒屋となっています。



まずは、酒屋でビールを購入して一杯目をキメる。これで澤乃井園に行く準備は整った……!!






アルコールで興奮した状態で澤乃井園に行きますが、もう若くないこともあり節度をしっかりと守った楽しみ方をしました。もつ煮に搾りたて原酒を一つ……。以前知り合いと訪れたときは5名ほどで銭を投げ合い四合瓶を開け続けた結果とんでもない目にあいましたが、身体を労らない飲み方は良くないと反省しました。



登山後の体に染み渡る塩分。そして生原酒の甘味!!調子に乗って四合瓶を開けたりすると帰れなくなるかもしれないので、これくらいの遊び方がちょうどいいと思います。




澤乃井の仕込み水は冷たく、奥多摩が磨いた水という言葉の納得度は高い。日原鍾乳洞のほうとか水綺麗だもんなぁ……。もつ煮と酒を楽しんだ後はシーズンのお酒を購入します。
酒蔵を目指す登山のいいところはそれぞれの時期に楽しめるお酒を購入できることですね。



というわけで澤乃井酒造さん「さわ音」を購入。
夏におすすめしたいデイリー日本酒、澤乃井の生酒ってさっぱりしていてハズレない。これは夏酒ということで凄くさっぱりしていて飲みやすいです、日本酒あんまり飲んだことない人にも行けないかな?
キンキンに冷やしたさわ音を、冷たいガーリックきゅうりと合わせて、なんて感じなら飲める人は多いんじゃないだろうか?
夏って暑いじゃないですか、塩気はあるけどこってりしてないものが食べたい、そんなご飯に合うお酒です。ポン酢やすだちみたいなものをかけたぶっかけうどん。キムチにオクラに生卵に納豆たくあんをかけたスタミナご飯やスタミナうどん、そういうものに合うんです。
もちろんタコワサ、枝豆なんてものあり。僕は梅水晶やウメキューかなぁ……あとはグズベリーの塩漬け!あれば最高!
これは本当に飲みやすいので、5月や6月に澤乃井に抜ける登山を楽しむときは購入をおすすめします!


ほろ酔い気分で電車に乗った後は速攻で寝てしまいましたが、おかげで南浦和まで感覚的に一瞬で帰ってしまった。
というわけで棒ノ嶺から始まった春の新緑登山は、いつの間にか奥多摩方面の山を歩いたような錯覚を覚える縦走となったのでした。GW前に歩くのがおすすめです!











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