【北アルプス】大滝山、静謐な森が続く中村新道の先に訪れる僥倖

大滝山の深い樹林帯

2025年8月1日から2日にかけて、北アルプス南部にあるマイナーでとっても静かな山歩きを楽しめる大滝山に行ってきました。コースは上高地から徳本峠へ向かい、中村新道を通って大滝山を目指すというもので、北アルプス南部に広がる亜高山帯の樹林をたっぷりと楽しむことができます。大滝山の標高は2,616mとなり、山頂はテント場にもなっているため蝶ヶ岳や常念岳、奥穂高岳から槍ヶ岳へと続く北アルプス南部の名峰を一望する眺めを楽しむことができます。

さて、この大滝山ですが雑誌「山と渓谷2025年6月号 日本アルプス名コース100」で紹介されていた山でして、紙面では鍋冠山からのルートが紹介されていました。しかし、それではピストンになるし……車じゃないと難しい。
Redsugarはそこで考えました、上高地から入山し中村新道を通り抜け、蝶ヶ岳から上高地に戻ってくるという周回プランなら亜高山帯の森を心行くまで楽しめるし、まだ歩いたことなかった蝶ヶ岳にも行けて一石二鳥ではないか?

ということで、今回は本当に歩いている人が少ない、サルのほうが多い中村新道を歩き、北アルプスで1,2位を争う静かさの大滝山荘で優雅な時間を過ごし、蝶ヶ岳へと続く高層湿原地帯を抜けて穂高連峰を見に行くというコースをご紹介したいと思います。

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このコース、コメツガやシラビソの森を楽しみたい人、静かな山歩きを楽しみたい人にはめちゃくちゃお勧めです。僕は北アルプス南部では1位2位を争うほど好きなコースでした。

目次

大滝山蝶ヶ岳周回縦走登山の概要

■概要
大滝山は北アルプス南部、蝶ヶ岳からさらに南側に位置している山になります。今回は徳本峠から続く稜線上に作られた中村新道を歩いて目指すこととなります。大滝山は北アルプスの中でも地味な部類に入ることもあり、蝶ヶ岳の隣にあるという立地でありながら本当に静かな登山を楽しめるというところです。

古くは修験道の対象の山とされていたようですが、大滝山荘を経営していた中村喜代三郎さんが1942年から作り始めた中村新道にはそういった遺構を見ることはできません。
現在、中村新道は徳本峠小屋や蝶ヶ岳ヒュッテの方々を中心に維持が行われており、初夏になれば刈払いが行き届いた気持ちの良い樹林帯コースを楽しむことができます。
Redsugarが歩いた際は、三郷スカイラインを利用し鍋冠山からのアクセスを行う人が多く、中村新道を歩いていた方は自分のほか下りの方が1名だけと、本当に静かな山を楽しむことができました。

大滝山の素晴らしいところは山頂にテント場があるということでしょう。しかも、登山客が少なく本当に静かで、トイレは水洗ですっごい奇麗で、天気が良ければ最高に過ごしやすいテント場になっています。
そこからの眺望は穂高槍はもちろん、蝶ヶ岳や常念岳へ続く長大な稜線と十分満足できるものです。
長い樹林帯歩きが続く中村新道は人によってはつまらなく、つらいかもしれません。
しかし、美しい森、荒々しい森を楽しみ、撮影したい方にはとてもお勧めできるコースになっています。
蝶ヶ岳まで歩けば、稜線地帯にある高層湿原や池塘も楽しむことができます。蝶ヶ岳登山を考えている人は、ぜひ大滝山と合わせた周回登山も検討してみてください。

■アクセス
公共交通機関でのアクセスが可能です。Redsugarは毎日アルペン号を利用しました。
【バス】竹橋→上高地:11,000円~(毎日新聞旅行の毎日あるぺん号利用)
【バス】上高地→新島々:3,000円~(アルピコ交通上高地線バス)
【電車】新島々→松本:710円~(アルピコ交通上高地線電車)
【電車】松本→立川:3,500円~(JR東日本、特急あずさ)
合計運賃 18,210円、夜行バスをほかのものに変更することで、運賃を下げられるかも。

■コースタイム
上高地5:30→明神館6:30→明神ベンチ7:50→徳本峠8:25→槍見台10:50→大滝山3km手前11:55→2km手前12:25→1km手前13:00→大滝山荘13:40→テント場13:50
合計登山時間 8時間、中村新道は長かったけど、登り8時間だけで初日が終わると考えたら楽なのかも?

夏山を目指す人々と観光客が集う上高地

2025年7月31日午後9時40分、バスタ新宿。
こんばんは、Redsugarでございます。真夏ですね!!!夏真っ盛りですね!!!バスタ新宿にやってきました、うれしいんですよ今回は!!何がって毎日あるぺん号じゃなくてさわやか信州号上高地行きのチケットをとれたからです!
運賃は大して変わらないんですが、めったに切符をとれた記憶がないので非常に喜ばしい気持ちを抱いてやってきました。バスタ新宿。

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観光客がメインのバスタ新宿。登山ザックを床に置いた「明らかに夜行バス登山勢、しかも慣れてる」人がたまーにいます。当ブログでも夜行バス登山はたまに取り上げているので、読んでいてくれると嬉しいな。

2025年8月1日午前5時30分、上高地。
おはようございます、Redsugarでございます。夜行バスを乗り継いでやってきました上高地。
バス車内で速攻睡眠に入る体制に入りまして、耳栓、アイマスク、枕を首に巻いて世界をシャットアウト。気が付けば長野県でした。夜行バスで寝られると関東から青森、徳島、島根と本州本土と四国の百名山はワンショットで狙うことができるようになります。え、なに??そんな無茶な登山したくない??

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日付的な余裕を確保できるなら、夜行バス登山はやめて新幹線や飛行機を使い前日入りするのが一番いいと思います……。僕もできるならそうしたい。

さて、朝の上高地ですがたくさんの登山客が準備をしています。小学生のお子さんなどもたくさん……、この年齢から上高地はすごいな、やる気あるな。河童橋まで行くと観光客の方々も多くなりますが……みんな梓川と奥穂高岳を眺めています。何度見てもいい景色だよね。

朝日で真っ赤に染まる焼岳

早朝の上高地。焼岳に正面から光が当たり、影となっている周囲から光の穴が開いたような景色になっています。今日は焼岳に登る人も多いのでしょう。

上高地より横尾を目指す登山者たち

上高地から横尾にかけては、横尾地獄と僕は呼称していますが、長い林道歩きが続きます。バスターミナルを出発した方々が林道を歩いてゆく……。目の前で昇っていく太陽を目指すように、みんな森の中を進んでゆく。

横尾まで続くこの道ですが、歩いている方々を見ていると結構面白い人がいたり……。アルプス慣れしているのか買い物袋に飲料やプリン的なものを入れて「買い物帰り」みたいな雰囲気でありながらも、すごい速度で歩いていく登山者とか。

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なるほど、横尾とか徳澤でテント張るっていう場合はそういうのもあり??なのか??……いうて余分な甘味を持つのは嫌だな。

日当たりでウェアを取り換える登山者

夏真っ盛りの上高地ですが、日が昇るとさすがに暑いです。街では気温が40度行くかという、灼熱地獄の状態かと思いますが、上高地の朝は20度以下。だけど、日が昇ってくると半袖じゃないと耐えられないくらい暑くなります。

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先行する登山者の方々が明神岳が見えるポイント(樹林がなくなって一時的に超暑くなる)で服を脱いでるようだ。自分は最初から薄着なのでこのままいきます。ドライナミックの上に薄手のミッドレイヤーしか着てないからね。

明神岳を見上げる

最初のチェックポイントは明神館になるのですが、その手前で明神岳を見上げるスポットがやってきます。明神岳は前穂高の隣にある高峰(2,931m)の一つですが、一般的な登山道が存在しません。主にアルパインの方々の登山対象とされていて、ロープワークを筆頭に数々のクライミング技術の習得が必要な場所になります。

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明神岳に登っている人たちってすごいよなぁ……。岩を登っていくってめちゃくちゃ怖いから絶対無理だわ。奥穂高岳とか一般ルートでも超怖かったもん。

明鏡止水の流れ

明神館の手前では森の中を流れる梓川の清流が水鏡を作っています。近くには穂高神社の奥宮があり、明神池という静謐な空気を携えた神秘的な湖もあるくらいです。気温差が大きい時期は水面から立ち上がる気嵐を拝むこともできます。

午前6時30分、明神館。
上高地から向かう大滝山で最初のチェックポイントになるのが明神館です。普段であればここで休憩することはないんですが、今回歩く大滝山はこの先の徳本峠小屋を越えたら「樹林帯でマジで何もない道を何キロも歩く」という状況が発生します。
なので、用を足すなら絶対にここで全部出すものを出す、腹の中を空っぽにしておくことが推奨されます。そして、徳本峠まではちゃんとした「登り坂」が始まるので、羊羹を食べたり、ナッツを口に含んでコーラ飲んだり、行動食をしっかりと食べておきましょう。

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大滝山(中村新道)は本当に長い道のりになります。しかも、徳本峠からは登り基調になるんですよね……、だからこそ、しっかりと準備をしましょう。

明神館を出て少し進むと徳本峠・島々谷と書かれた看板が現れます。分岐路を右手に進めば徳本峠へ至る登山道になるのですが、さっきまで見かけた沢山の登山者はどこに行ったのでしょう。人っ子一人見かけない、薄暗く野性的なシダが生い茂る樹林帯がどこまでも広がる景色を前に畏怖を覚えます。

登山客のほとんどは槍ヶ岳や穂高を目指します。日本近代登山の父「ウォルター・ウェストン」がかつて上高地に辿り着くために歩いた徳本峠、霞沢岳と大滝山へとつながるジャンクションでもある徳本峠ですが……そこを目指す人々は数えるほどというのが現在の状況のようでした。

かつては明神、上高地へ向かうメインルートだった徳本峠。ウォルター・ウェストンはもちろん高村光太郎や芥川龍之介も越えた道とされています。高村といえば智恵子抄で、そこに描かれた「ほんとうの空」は安達太良山を登った方は目にしたことがあるでしょう。
もう一人の文人、芥川龍之介は17歳の時に槍ヶ岳に登頂しており、その体験は紀行文『槍ヶ嶽紀行』に残されています。読んでみると芥川の書く文章が読みやすくもありながら表現が芳醇であることに驚きます。穂高の山々から垣間見える空を下記のように表現していたり。

「こんな山が屏風めぐらしたようにつづいた上には浅黄繻子
あさぎじゅす
のように光った青空がある。青空には熱と光との暗影をもった、溶けそうな白い雲が銅をみがいたように輝いて、紫がかった鉛色の陰を、山のすぐれて高い頂にはわせている。」

また、ほかにも槍ヶ岳周辺の景色を前にした芥川は下記のようなことも記しています。

荒廃と寂寞(じゃくまく)――どうしても元始的な、人をひざまずかせなければやまないような強い力がこの両側の山と、その間にはさまれた谷との上に動いているような気がする。

悠久の時間を抱く山。人間という存在を気に掛けることもない、途方もない大きさの大地を前にしたとき。どの時代の人々も畏怖の念を抱くのだなぁ……と。

上高地クラシックルート、徳本峠を目指して。

山を削る小川にかけられた木橋

徳本峠までの道ですが、薄暗いし人は歩いていないし……寂しいものです。人間よりも明らかにサルとかシカのほうが多いだろうと思える道が続きますが。この後それが証明されることになります。

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あ、ちなみに整備はしっかりされていますよ。そこは大丈夫です。めちゃくちゃ歩きやすいですから。

石清水が小川となり山を下る

さらさらと流れる小川に沿って標高を上げていきます。徳本峠に朝向かうっていうのは、日陰の中を進むっていう状況になりまして、徳本峠に上がりきるまでは、日当たりがよくないです。なので写真を撮る場合、僕の場合はZ7IIというカメラをこの時は使っていますが、iso800、絞り11、ss1/25とかそういう感じで撮影をしています。
手振れ補正があるおかげで低速シャッターでも中心のピントが合うようになって、本当にありがたいですね。

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Redsugarは三脚を山にもっていってません。なので基本すべての写真は手持ちで撮影しています。だから、普段から手持ち撮影でバーティカルラインを整える練習をしています……。毎朝の散歩撮影は手持ち、低速シャッターでバーティカルラインを整える練習という側面もあるんです。

薄暗く、梅雨の尾を引いた湿っぽい空気の中を登っていくと額から汗がにじんできます。沢沿いを歩いているということで、時折肌を舐めるような冷たい空気が吹いてくる……。早朝の日陰の谷沿いって不気味です。

徳本峠登りから見る明神岳

沢筋から尾根筋に向けてつづら折りが始まると、木々の合間から明神岳と奥穂高岳へと続く稜線を真正面から眺めることができる場所にやってきます。ここから見るとよくわかるんですが、西穂高岳から奥穂高岳への稜線……人が歩けるようには見えないな。

明神岳を眺めるベンチ

午前7時50分、明神ベンチ。
明神岳をよく眺めることができる場所には鉄製の即席ベンチがあり、ここまでの疲れを多少癒すことができます。明神館から歩き始めて1時間半ほどの場所にあることもあり、小休憩するには最適です。

写真三枚目を見て徳本峠か!?と思った方、違います。まだあと0.8㎞、つまり800mもあります。400mトラック2本分と考えると大した距離に思えないけど、山道だからねぇ……まだまだ先です。
稜線まで上がってくる直前には崩落した斜面にかけられた木の梯子とか、砂地のトラバースとか、日陰の中でそういう道ばっかり歩いていた。

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尾根に出たことでようやく木漏れ日が……降り注ぐ!!身体が目覚めていくぅううう!朝の太陽の光を浴びると脳内で「セロトニン」が分泌され、14時間~16時間後に睡眠ホルモンの「メラトニン」に変換されるんですが、登山しているとバッキバキに興奮しているせいか、夜はまったく眠くならないんですよね。歩いているときが一番眠い、悔しい。

尾根に向かってつづら折りに続く登山道をゆっくりと登っていきます。中村新道は超長期戦と言っていい、登り8時間のコースなので……前半調子がいいからと言って速度を出すと後半本当に泣きそうになる。

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徳本峠までの案内が手厚いな。ていうか霞沢岳までは分岐点から約4キロか……、徳本峠にテントを張って初日霞沢岳、二日目に島々谷に降りるのは本当にありなコースだな。

午前8時25分、徳本峠。
日本近代登山の先駆者たちが歩いたとされる徳本峠に到着しました。数人ほどの宿泊客が朝の長閑な時間を過ごしていて、皆さん10時くらいに上高地に向かって下山して、午後になったら帰りますとのこと、なんて優雅なんだ……。
徳本峠のテント場は樹林帯の中にサイトが作られており、Redsugar的には理想的なテント場だなぁと思いました。ここは絶対に泊まりに来るぞと固く心に誓う。

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小屋の近くには明神岳方面の眺望が良い見晴らし台があるということで、そちらに移動してみましょう。

徳本峠から見る明神岳と穂高岳

徳本峠小屋付近の見晴らし台というか、切り開かれた斜面から明神岳を見ることができます。

徳本峠小屋から明神岳を眺め、小休憩を挟んだら中村新道へと向かいます。大滝山中村新道登山はここからが始まりです。ここまではスタート地点に立つための、序章だったんだ……。
徳本峠から大滝山までは片道約8.5㎞(ヤマタイム調べ)となる長い道のりです。ハイドレーションはちゃんと2リットル入っているか、徳本峠で補給を行ったか。準備をしたら、小屋の裏手から中村新道へ進みます。

槍見台を目指して、長い森の始まり

大滝山登山道入り口で出会った猿

中村新道に入ってすぐのことでした、サルの大群に囲まれた……。
威嚇はされてない、サルたちは普通に生活をしている。カメラを向けてもサルたちはその辺をうろついている。これなら通してもらえそうだという根拠のない安心感を胸に森を進んでいきます。
しかし、これだけのサルの群れ。北アルプスには多くのサルが住んでいるのを知っていますし、何度も見たことがありますが、徳本峠小屋の人は大変なこともあるんだろうなという想像が頭を巡る。

中村新道から大滝山へはゆったりとした上り坂が続きます。その前半区間は有志の方々による刈払いが行われた直後だったらしく、刈り取られた笹が発酵してゆく際の、鼻に抜ける甘くもあり揮発するような独特な香りが登山道には満ち溢れていました。
中村新道の森の中は深く、人の手が入っているとは思えない極相の森が広がっています。
登山道はその森の中に針の先端で傷をつけるような形で伸びていくのでした。

中村新道の槍見台付近までは、刈られた笹の痕跡が真新しい。小屋の方々かな……ありがとう。
そして、中村新道といえば「槍見台まであと〇km」と「大滝山まであと〇km」という表記です。フルマラソンを走ったことがある人ならわかるでしょう、29㎞や37㎞地点で看板を見た瞬間に、デジタルな数値で「あと〇㎞かぁ」と思った瞬間に辛くなるあの感覚。中村新道にはそれが満ちてあふれています、いいですね、心が強くなりそうです。

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そして、あまり人が歩かないところだからこそゆえに、不思議な存在を錯覚させるモノも現れます。こういうものは、そういう風に見ているというよりは、向こうからやってくる感覚が近い。勝原文夫の風景論では風景は景観に対して主体の態度によって探勝的風景と生活的風景に分けられています。尊いのは、生活的風景だ、と現代まで色んな言説で似たようなことが語られています。
主体が客体を認識・発生させる感じよりは、歩いてると風景って向こうからやってくる感じがあるんだよなぁ……。この辺はボードリヤールのモノが写真を撮ることを要請してくるっていう、そこに首肯するものがある。
修験道もその辺は後者かつ、主客未分的な「自らが自然の中の一つであると自覚する=自然(曼荼羅)と一体化する」という感覚があると思うのです。

明神見晴らしと書かれた看板が現れました。今日何度目の明神の眺めなんだろう。徳本峠に登っているとき、徳本峠の見晴らし台から、そしてここで三度目ですが、一番景色が悪いです。

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周りの植物が育ちすぎて全然見渡せないよ、山頂部分しか見えないよ。

槍見台まであと2㎞。植生が亜高山帯らしい針葉樹がメインになってきました。空が見えないほど密集した針葉樹林帯が周囲に広がっております。

あと2㎞で槍見台。中村新道の登りは緩やかで、平坦と錯覚するような登り坂が延々に続くといったものになります。標高が2,000m近いので気温も程よく、発汗もひどくはない。

周囲を見渡すと極相の樹林帯が周囲に広がっているという感覚がわいてきます。極相というのは植物の遷移が進んだ結果、環境が変化しない限り構成種が安定しつづける生態系という感じ……で理解しています。
さすがに登山道以外に人間の手が入っている(人的攪乱という)気がしないので……、亜高山帯の極相の中を俺は進んでいる、はず。

高山帯の樹林を歩く

標高が高くなってきたのか、シラビソが目立つ周囲の景色。木々の下で繁殖していた背の低い草や笹が、さらに小さくなってきました。苔に覆われた大地からシダや木の芽が顔を出す、地勢が変わってきたなぁと思いながらゆっくりと登っていく。

槍見台まであとどれくらいなんだろう?登っては降りて、緩やかな直線を歩いてを繰り返します。シラビソの森は密度を増していき、日の光が差し込まない場面も現れるようになりました。
登山道の周辺の地面は背の低い、足首ほどの高さしかない草と、地衣類の緑を纏う地面、そんな景観になってきました。

倒木整理がされているが暗い道

槍見台を前にしてだいぶ森が暗くなってきました。木々の隙間から、「なにか」が現れるのではないか。何者かに見られているのではないか、そんな不安がよぎるような、暗い森。

シラビソの樹林帯

7月ということもあり、樹林帯のはるか上空では雲が日差しと戯れるように流れています。
先ほどのように突如として森から光が失われ、暗がりへの畏怖を覚えること。光が現れれば、その畏怖は唐突に霧散し、根拠のない安心感に身体が包まれるのです。そういうことを繰り返し経験しているうちに、太陽の光が持つ力って本当にすごいものだなと。メンタルが落ち込んだり、鬱気味になったときに、とにかく朝起きて朝日を浴びてくださいというありきたりな言葉の後ろにある説得力、間違いない。

午前10時50分、槍見台。
森の中を歩き続け、それは唐突に現れます。ここまで道と、道を整備するために切り倒された木々の痕跡以外
何も人工物がなかった森の中に、人がくみ上げた立派な構造物が現れるのです。しかし、この槍見台……、だいぶ老朽化が進んでいて木が腐ってる。まだ登れるのだろうか?と思って恐る恐る上がってみると……。

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うぉッ!!!足元の木が朽ちてて底が抜けそうなんだけど!?これめっちゃ危ないやつじゃん!!

降り立った足元からミシミシと音がなったその瞬間、血の気が引きました。数ミリかもしれないが、靴底が沈み込むような感触が足裏から駆け上り、櫓を作る四方の大きな柱に身体を預けて即座に撤退。下から見上げてみると、過去に上った人々の影響もあるのか、今にも折れそうな土台の木々が……、次に上った人、怪我するんじゃないかな。

槍見台から大滝山へ、中村新道後半戦の森を歩く

槍見台から見る槍ヶ岳

槍見台から降りる直前にちゃんと写真は撮影しました。記事を書くための使命感なんでしょうか。
降りなきゃという気持ちよりも先にカメラを槍ヶ岳へ向けていたっていう。
槍見台からは名前の通り槍ヶ岳がばっちりと見えます。穂高岳も一緒に見えるんですが……、周囲の木々がそれなりに高く育っていて、眺望がいいとは言えない。

怪物のような朽ち木

槍見台を後にして、あとは大滝山山頂を目指すのみという状況。
しかし、ここから先も山道は長く続きます。暗がりの樹林帯を通りかかれば、登山者を眺めるように、森がこちらを見ていると錯覚する眺めが顕れたり……。

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なんかジャミラみたいな顔がこっち見てるよぉ~。

朝5時台に上高地を出発し、徳本峠を越えて延々歩き続けて……さすがにちょっと疲れたのでしょうか。倒木が微妙な光の加減でジャミラみたいになっててびっくりしたり、ちょっと栗羊羹でも食べて落ち着くか……。行動食を口に入れながらも、ゆっくりと歩みを進めていきます。
あと4㎞くらい歩けば山頂に到着するのだという看板を前に、長いなという倦怠感と、あと2時間もしないうちにこの山歩きは終わるんだという哀愁感が湧きあがります。4㎞という数字にアンビバレントな気持ちを抱きつつ、シラビソの木々に覆いつくされた森を歩き続ける。

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本ッ当に長いんだよなぁ……、この中村新道。登りで歩いたというのもあるけどもさ。

化け物のような倒木

中村新道後半戦は森の野性味がどんどん増えてきて、根元から倒れた木が何か意志を持っているような、そんな造形物が道端に現れます。森がすごく強い場所だから、一人で歩いていると気圧される。

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森に気圧されるような体験がしたいということであれば、この中村新道はお勧めですね。

倒木から生える若木

倒れた木に纏わりついた苔を見ていると、苔が生えたナマケモノみたいに見えてくる……。そしてよく見てほしいのは、朽ちた樹木の幹から新しい木の芽が生えてきていることです。土から生えるんじゃなくて、朽ちた樹木から新芽が生えるの。深山ではよく見る景色ですが、人里では中々見ることができない景色ではないでしょうか?

午前11時55分、大滝山から3km手前。
看板の文字が削れて3km手前というのが一瞬わかりませんでした。3㎞という数字を認識しても無感動です……、ここまで歩いてくる最中、頭の中に浮かんできた様々な考え事はあらかた眺めつくしてしまいました。
登山をしたり、マラソンをするといろいろなことを考えますよね。会社のこと、家族のこと、将来のこと、何かの状況が想像され、そこで話す自分や、文句が浮かぶ。でも歩き続けていると段々脳が疲れてくるのか、考えていることをあらかた考えつくしたのか、自然と「何も考えない」瞬間が訪れないでしょうか?
僕はその瞬間が、登山をしていて一番穏やかで、美しい時間だと思っています。
ただ目の前の景色を見る、細部まで目を凝らして小さな驚きや関心が心に浮かぶ、そのことだけに集中できる。

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歩行禅ってそういう感じなのかな?と。朝の散歩もそうだけど、山を歩くときはいつもその瞬間が訪れることを願っています。だから、ロングコースをとにかく歩きたいんですよね。

中村新道の森は深くなるばかりで、よく見てみればそれぞれの木の形相も多種多様です。スーッと天高く伸びていくものもあれば、空からひらひらと降りてきた軌跡のような波線を描く幹もある。苔に覆われていたり、皮剥ぎにあっていたり。どうやって身体を支えているのだろう?地面にどれほどの根があるのだろう。実は砂時計型で、僕たちが見ているのは上部分だけで、下のほうが凄くでかいんじゃないか、と様々な考えが浮かんでは頭の後ろへと過ぎ去っていきます。身体も頭も前に前に進み、考え事は歩いた後にぽろぽろと落ちていくようです。

地を這うような倒木

山歩きは思考のデフラグなんじゃないか、歩いているときにいろいろ考えて、あらかた浮かんだ後にどんどんいらないものが捨てられていくような、土を踏む足の裏、その歩行のリズムに合わせて何かが揮発して消えていくような気持ちよさがあります。

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1978年、バックパッカーのバイブルとされる遊歩大全という本が出版されました。ULの起源のような本ですが、その中に描かれる「なぜ歩くのか」という哲学ともいえる話や、瞑想的なウォーカーの話が描かれます。人間と二足歩行が切っても切れない関係のように、歩くことと考えることには深い関係がある。という話が読めて面白い本です。
さらに、「歩くという哲学」を読めば、古今東西の思想家や詩人の、驚異的ともいえる歩行のお話を読むことができます。遊歩大全の背景には、歩くという哲学で描かれた人々の様々な軌跡を見て取ることができるはず。

正午を過ぎたくらいでしょうか、湧き上がる雲が森から日差しを奪い去り。白い幕を通した柔らかい光が、森の植物たちを平等に照らすかのように浮かび上がらせます。
「いま、どのへんにいるんだろう」
そんなことをぼんやりと考えながら、果てしなく続くように思われる森の中を歩き続けます。聞こえるのは鳥のさえずりと自分が歩く音だけで、ただひたすらに静かな森が広がる。

大滝山までを誘う看板

午後0時25分、大滝山から2km手前。
大滝山まであと2キロ、平地であれば30分もあれば終わる……というくらいの距離感です。ここまでのペースから考えると、小屋には13時30分~14時くらいまでには着くのではないでしょうか。
「もうすぐこの樹林帯とおさらばかぁ」という惜別の情を胸に先へと進みます。

すさまじい密度のシラビソ樹林

大滝山山頂を前にしたもっとも後半の区間、そこには中村新道の最も注目すべき森が広がっていました。これは撮らないとだめだ!と思えるような、圧倒的な密度の森が広がっていたのです。シラビソが密集した森なのですが、この場所の雰囲気は唯一無二でした……。

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この写真を撮影した場所の周辺の森は本当にすごかった……。中村新道を登りで使ってよかったと思える森でした。

ぐにゃりと曲がった木々をまたいで歩く道

シラビソの森を抜けていくと白い空が目立つようになってきました。大滝山稜線はハイマツ帯って聞いてるから、そろそろ森が終わるのではないか、そんな淡い期待を胸に、坂を登っていく。

午後1時00分、大滝山から1km手前。
あと1㎞、シラビソの密林を登っているときに芽生えた淡い期待は現実となり、日差しを遮る森は徐々にその姿を消していきます。稜線、その意味場には景色がよい、あたりを見渡すことができる、山の頂を繋ぐ高い場所というものがあると思いますが、あと1㎞の看板を超えた先にはちゃんとそれが表れたのです。

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や、やった……、不思議の森を抜けたぞ……!!

草地の尾根を進む

正午を過ぎた空では、水色の隙間を我先に埋めようという勢いで雲が流れています。森が終わったはいいのですが、草地が広がる稜線は大滝山山頂に向かって急激ともいえる角度で登っていくものですから、そこを歩く僕の足はもうパンパンです。

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最後の最後に、こんな登りとは……汗が、汗が噴き出るっ!!

空へ、山頂へと向かう急な上り坂を登りきると、ハイマツが生い茂る平地へとたどり着きました。大滝山山頂(南峰)です。あたりを見渡すと、朝はあんなにきれいに見えていた明神岳や奥穂高岳が雲に覆われていました。
あの景色を見たのが、昨日のように思える……。登山をしていると、早朝から濃密な時間を過ごし続けるため、半日前のことが数日前のように思えることがあるんです、僕以外にもそういう人はいる……はずだ。

北アルプスで最も静かな山小屋の居心地

午後1時40分、大滝山荘。
大滝山の南峰から歩いていくと、稜線部分にある池塘を通過します。ハイマツが生い茂るこんな稜線部分に池があるんだな……と思いながら低木のトンネルを抜けていくと、北アルプスで最も静かな山小屋ともいわれる大滝山荘に到着。小屋の周囲に人の気配はなく本当に静かな空気が周囲を満たしている。
「すいませ~~ん!」
と、大きな声を出して呼びかけると、小屋番の方が奥からやってきます。
テント泊の手続きや手ぬぐいの購入を済ませて、北峰山頂にあるという噂のテント場へと向かいます。

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な……、長かったッ!!

小屋から数分歩いた場所にある大滝山北峰がテント場となります。写真を見ればお判りいただけますでしょうか、穂高、焼岳と、テント場の眺望……いいじゃん。周囲にはハイマツが密集していて、少しばかりの風は防いでくれそう。
強風の時は小屋に泊まるのがいいと思うけど、風がない日に泊まるには最高のテント場じゃないでしょうか。

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いやぁ、北アルプスの数あるテント場の中でも、僕はこの大滝山のテント場がめちゃくちゃ好きになりました。人も少なく、静かで、地味だけど見晴らしがいい。派手じゃないところがいいんです、粋ですよこれは。

午後1時50分、テント場。
大滝山北峰山頂にあるテント場はこじんまりとしており、人的な収容数はそこまで多くはない模様。
しかし、このテント場を目指して来る人というのがそもそも限られていることもあり、広々と使わせていただくことが出来ました。この日持ってきたテントはアライテントのSLソロ。グラウンドシートを含めても1㎏ほどのダブルウォールテントで、風が弱く雨も夕立程度という状況であればまずこれを持ち出す、軽くて居住性が良いテントになります。

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モンベルさんとアライテントさんのテントを使わせてもらっていますが、このSLソロは環境を選べば本当に身体への負担が少なく。かつ居住性に関して文句ない体験ができる素晴らしいテントだと思います。

テントを張ったら今日の行動はもう終わりです。早朝に上高地を出発し、本当に長かった中村新道の登りも過去のこと。小屋でスナックを購入し、FM長野を聴きながらご機嫌な午後のフリータイムです。街にある様々な関係から物理的な距離が取られたこの大滝山の山頂で過ごす午後のひと時は至福の時間でした。
お湯を沸かしてカレーメシを作ったら……、ロング缶も飲んでしまった。

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登山をやっていて良かったと思えるのは、こうした時間を持つことができることではないでしょうか?
自然の中に身を置いて、生活(仕事や家庭といった様々な人間関係や社会的利害)から物理的に距離が離れていること。この身一つで、自然と向き合って、旅人としてひと時を過ごす。何者でもない、自分自身を静かに対象化できる時間。なーんてね。

高山地帯で生きる蝶

ビールを飲みながら、テーブルの対面にある樹木の周りを飛ぶキベリタテハを眺める。
日本では1,000m以上の山地や、冷涼な気候に適応するチョウで、幼虫はダケカンバの葉を食べる生粋の山野郎です。

午後4時15分、昼寝。
ご飯も食べて、ビールも飲んで……やることなくなっちゃった。
ザックに詰めてきた本でも読みながら、夕方までのひと時を優雅に過ごそうと思いテントへと戻ります。
本の文字を追っているうちに酔いの影響か、歩き疲れたのか、眠くなってきた……。

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だめだ、ちょっと寝るわ。幸いにして日差しが出てなくて、テント内の気温は肌寒いくらいで最高の居心地……。
このまま、マジ寝しちゃってもいいかもと思えるくらい気持ちがいい。

テント場から見下ろす安曇野市街

テントの中でのんびりと過ごし、夕刻へと迫る中。
流れる雲が途切れ、束の間の青空がやってきます。日帰りじゃなくて、山に泊まるっていうことの良さはこういう時間にあるよなぁと思う。眼下には山々に囲まれた安曇野の里を一望することができます、FM長野を聞くのが最高に楽しい景色だ。

常念岳方面の眺め

常念岳方面は相変わらず雲が多く、その姿を拝むことがなかなかできません。

山頂から見下ろす虹

傾く日差しが生み出す景色もあり、雲間には虹が現れたり、ブロッケンが現れたり。太陽と大気が戯れる自然の演目をただ眺める時間が続きます。

redsugar

流れゆく景色をただ熟視する時間、贅沢だな……。

大滝山山頂の看板

日没が近づくにつれて雲が高度を下げ、空には青い空が顕れます。黄金色の日差しがテント場に差し込み、皆一様に外に出て景色を一瞥するのです。テントからよちよち歩きで這い出し、山頂に置かれていた大滝山の看板を撮影……、後は日没を眺めて今日は終わりという気持ちが沸き上がります。

redsugar

これ撮影するの忘れてた……、晴れたからちょうどよかった。

大滝山山頂で出会ったブロッケン

「あらー、ブロッケンが出てるわよぉ~!」
小屋に泊まっているマダムが山頂へとやってきて、日没前のアルプスの眺めに声を上げました。
指が向けられたほうへ顔を向けると……確かにきれいなブロッケン。

雲に沈みゆく西日

太陽は穂高に蓋をするような雲の向こうに沈んでいきます。
登山においてご来光と日没は一大イベントであり、眺望が良い場所に人々が集まる瞬間でもあります、大滝山でもちょっと人が多いなと思うくらい。

その様を後ろから眺めていて思うのは、はるか昔に山々を歩いた人々も、平地で見る夜明けや日没以上に、これらを尊いものとして眺めていたのかもしれないということ。頂に立ち、時の移ろいを見る人々の所作に、過去を思い描く。

滝雲が蝶ヶ岳を超えていく

大滝山の目の前には蝶ヶ岳の稜線があるのですが、稜線を撫でるように雲が流れていきます。日没前の幻想的なひと時。

ガスの中のハイマツ

大滝山のテント場も、山腹から湧き上がる雲が時折フワッとあたりを包み込み、ハイマツの奥に白いハンカチが広がったような景色が訪れます。

夏の積乱雲

対して、街のほうに目を向ければ、たっぷりと雨を降らせた(もしかしたら、いま、降らせている)であろう入道雲がいくつも姿を見せてくれます。

大キレットに差し込む夕日

午後6時50分、日没
夏は日が長く、大滝山の場合は穂高のむこう側に太陽が沈んだ時点で「はい、もう寝ましょう、雲が赤く染まるのはいいです、明日早いし」っていう気持ちになれるんですけど、それでも午後7時付近になってしまいました。
早朝から歩き続け、眠気に襲われる眼を擦りながら、大キレットのむこう側に降りていく太陽を見送ります……。

redsugar

大キレットの上に雲があるおかげで、大キレットから丸く光線が放たれるような感じになっていた。

夕焼けの槍ヶ岳

無事に太陽は山のむこう側へと降りていき、残照が一日の終わりをゆっくりと奏で始めます。きれいに見えるようになった槍ヶ岳と周囲の山々を一瞥したら、すぐにテントに入って入眠の姿勢へ……。
明日は初めて歩く蝶ヶ岳ですが、大滝山~蝶ヶ岳の区間には湿原地帯や池塘があると聞いています、朝の美しい光の中でそれらを楽しむために、おやすみなさい。

シラビソ樹林帯の大滝山山中

大滝山、中村新道は静寂が広がる深い森をただ歩く、静謐な遊歩のための道。
万人にお勧めできる道ではないとはっきり言える道でしたが、僕は大好きです。
ここは本当にいい道で、また行きたい。景色が強いとかは全くないです。登山という行為の中に、省察的な遊歩を楽しむために野外を歩くということが含まれていると思いますが、その部分が好きな人にはお勧めしたい。

大自然の中の一つとしての自分を感じながら、個が溶け出して道と一つになっていくような、そういう感覚を抱いてしまうような道です。眺望はないし、猿はたくさんいるし、長いし……レジャーとしての登山の側面で見ると楽しくない。けど文化や認知の側面から見たとき、こういう道が、歩く人々の思考を導いてきたんじゃないかと思えるような道でした。景色じゃない、心の充足感、蕩尽なんだこれは!!という気持ちを共有できるハイカーの方には、とってもおすすめです。Redsugarは大好きな道でした~、徳本峠はまた行ってきたいと思います。

人生最高の山は続く。

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